Ⅲ腫瘍谷口文紀F. Taniguchi 鳥取大学医学部産科婦人科学(教授)1272フォームド・コンセントをもとに選択する。手術と薬物療法の比較,薬剤相互間の疼痛抑制効果の優劣だけではなく,挙児希望の有無や時期,年齢,合併症等のリスクの有無,社会的背景等を基準に,副作用や治療費も勘案して薬剤選択や手術適応を判断することが重要である。特に思春期女性においては,子宮内膜症があっても軽度であることが多いことが知られている。しかしながら,月経困難症は将来の子宮内膜症発症のリスクとなる1)2)ため,必要に応じて検査あるいは介入し,軽症の子宮内膜症を重症化させないよう配慮する。疾患の概要 子宮内膜症は,疼痛と不妊という2大主徴により女性のQOLを害し,女性活躍と少子化が問題となる現代社会に重大な影響を及ぼす。本症は,生殖年齢女性のおよそ10%に発生するとされる。近年,罹患率増加が指摘されており,その原因として,ライフスタイルの変化による月経回数の増加や,画像診断技術や腹腔鏡の発達による診断精度の向上が寄与している。しかしながら,医療機関を受診していない潜在的患者が多いことから,正確な罹患率を把握することは難しい。疼痛を訴える患者に対しては,ホルモン療法と腹腔鏡手術を駆使して卵巣機能の温存を図りながら,個々のライフステージに応じた治療を施す。子宮内膜症合併不妊患者に対して,画一的な治療方針を示すことは難しいが,常に生殖補助医療(assisted reproductive technol-ogy;ART)への移行を考慮して,手術を行う場合には,年齢,手術侵襲による妊孕性低下,不妊治療歴などに配慮する。悪性転化,早産や前置胎盤などの産科合併症等との関連についても注目されており,慎重な対応を要する。診療フローチャート 治療の目的は,疼痛の制御・病勢進行の抑制・妊孕性の温存である。適切な治療方針を,薬物療法,手術療法,不妊治療,あるいは無治療での経過観察のなかから,患者とのイン疼痛を伴う子宮内膜症の治療方針 子宮内膜症取扱い規約3)を参考にしていただきたい。疼痛の治療方針を図1に示す。 ⅰ)まず,挙児の希望を確かめる。 ⅱ)現在,挙児の希望がある場合は対症療法を行いつつ,不妊治療をすすめる。 ⅲ)将来的に挙児を希望するが,現在希望がない場合は,対症療法かつ,またはホルモン療法を考慮する。症状が持続する場合や薬物療法の副作用がある場合は,保存的手術を検討する。保存的手術を行った後に症状や病巣が再発した場合には,対症療法かつ,またはホルモン療法を行う。再発を予防するために,術後ホルモン療法も考慮する。 ⅳ)将来的にも挙児を希望しない場合も,対症療法かつ,またはホルモン療法を考慮する。子宮内膜症26
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