305もの心のケアプロジェクト」を立ち上げた3)。 プロジェクトの活動目的として,3つの基本的方針,「子どもの居場所を作る」,「PTSD(post-traumatic stress disorder)を早期に発見する」,「地域が子どもを守る」を立てた。震災直後からライフラインが途絶し,放射線の被ばくの心配から子どもは屋内に閉じ込められ,また学校や保育所,幼稚園は休止していたため,まず子どもの居場所を作ることから始めた。子どもや保護者が安心していられる屋内の環境が必要であり,行政施設の一部開放や,郊外の温泉地域に避難してきた子どものために,温泉施設内の大広間を開放してもらった(図1)。 家から一歩も外に出ず完全に閉じこもっていた親子を,どうやって外に出かけ,そして気分転換をしてもらえるか頭をひねった。従来,郡山市では絵本の“読み聞かせ”が活発に行われていた。地域に根ざしたその活動は,大人たちが容易に子どもの世界に入ることが可能で,なおかつ,子どもの表情や様子を間近に感じ取ることができる。PTSDの早期発見には,周りにいる大人が子どもの変化に気づくことが大切で,ちょっとした仕草や顔つきから子どもの持っているストレスや恐怖を理解し,共有することが重要である。このような点からも,子どもから適度な距離感で接することができ,自分自身の心に多少の余裕のある読み聞かせボランティアの方々はまさに適任であった。日頃の読みきかせや遊びを通した活動のなかで子どもの変化を観察し,気になった子どもがいればすぐに専門家が対応できるような体制を目指した。こうして多くの地域の方々の協力を得て,地域全体で子どもを守る1つのモデルとなる活動を開始した。3.郡山市震災後子どものケアプロジェクトの主な活動内容 プロジェクトに関係するメンバーは,同じ目的と問題意識を持って活動し(統一性),19人の多職種からなるコアなプロジェクトメンバーを中心とした様々な団体や組織が連携し(構造性),長期に及ぶ地道な活動を行う(継続性)ことを重要視した。 これまでの活動は多岐にわたった。前述した絵本の読み聞かせ活動は,地域の公民館や図書館での開催に加え避難所でも行った。力を入れていたのは心のケアに関する活動である。福島が受けた災害は,地震と津波という天災に,放射線拡散事故,その後の風評や差別といった人災との複合災害であり,様々な要因からPTSDの発症が懸念された。渡辺久子医師を中心に,経験豊富な専門家や臨床心理士による心のケアに関する研修会,海外から招聘した専門家や柳田邦男氏(作家)による講演会を頻回に開催した。さらに,子どもの不安に対する手当の方法の具体例を示したリーフレットを作成し,市内の約4万世帯に配布した。さらに臨床心理士が遊び場などに出かけ,気軽に保護者が相談できるような機会を設けた。この相談活動は現在も屋内遊び場で毎週開催され,震災後の様々な不安だけではなく,発達障害に関する相談までも引き受けている3)。また,次号以降で改めて記述するが,子どもの現状把握のための各種調査研究活動も継続的に行った。 これらの事業には多くの方々の協力が不可欠であったが,かかわったすべての人が過酷な状況を何とか乗り切って地域の子どもを守りたいという気持ちを持っていた。このように官・民・専門家がそれぞれの持ち味と強みを活かし,お互い協力して多くの事業ができた例は, 図1 温泉施設内の子ども広場産婦人科の実際 Vol.67 No.3 2018
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