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568日々起こる新しいことへと移り,順応できない人にとっては,世の中の流れから置いていかれたり,疎外感を持ってしまったりするのではないかと危惧する。 今回の震災は,日本という国や被災地の私たちに何を残したのであろうか? 前例のない大災害に見舞われ,多大な犠牲を払った上で,私たちは何を学んで次の時代につないでいくのであろうか? 復興が叫ばれるが,復興とは元どおりになるだけでなく,新たな社会,新たな仕組みを作りあげることだと思う。特に,災害弱者と言われる子どもの生きる環境(成育環境)の再構築が喫緊の課題と考える。筆者の目標は,『福島の子どもが日本一元気』になることである。地域の大人が子どもに寄り添い,そして次世代の社会を支える子どもの健やかな心と体を育まなくてはならない。例えば,肥満児の発生を抑える地域一丸の取り組みが必要であり,子どもが思いっきり遊べ,楽しむことができる屋内外の遊び場や,東北の寒い環境であっても運動・スポーツが自由にできる全天候型の運動場の設置なども必要である。子どもが育つために必要な刺激や経験を与えることができ,地域の大人が子どもの発育発達をしっかりと見守る体制を急いで創らなくてはならない。そのためには子どもの目線に立ち,子どもを中心に考えることが必要である。 30年前の日本の子どもが持っていた良き生活習慣を取り戻し,そして新しい時代に適応した生活習慣を新たに組み入れる,まさに子どもの成育環境のルネサンス(再生と復興)が必要である。福島だからこそ気付くことができた子どもを健やかに育むための環境整備の重要性は,おそらく次の時代の日本の子どもの生きる環境を創造する上での大きなヒントになりうると確信している。教育・保育の現場だけでなく,行政,地域,医療関係者,そして保護者が一丸となって,地域の子どもを育む社会の創生を福島で実現し発信することが求められている。 これからわが国は,ますます極度の少子高齢化と人口減少社会に向かって突き進んで行く。少子高齢化が叫ばれてからだいぶ年月が経っているのにもかかわらず,抜本的な政策もいっこうに取られず,解決策もみられていない。臨床心理士の相談内容は当初は災害に関することが多かったが,現在では子育ての不安や発達障害などが増えてきている。この傾向は,かつての阪神淡路大震災の後にも同様に見られたそうで,2014年8月の広島豪雨災害,そして2016年の熊本地震後でも同じことがいえるではなかろうか。つまり,子どもを育てる保護者にとっては,たとえ大きな災害が起ころうとも,数年経てば大災害を乗り越えることが可能だが,“子育て”に対する悩みは変わることなく根底にあり続けるということを示している。子育てを地域が応援し,最終的には子育てしたくなるような街作りが必要である。この観点から,筆者らは『Joyful子育て福島プロジェクト』を立上げ,「楽しく子育て」ができる街,地域の創造を模索中である(図4)。お わ り に 筆者は医学部の学生時代の数年間に小児科学を先輩や教科書から学び,また国家試験に合格してから震災までの13年間,臨床の現場で小児医療を経験してきた。しかし,その知識や経験は,この震災後の子どもを守り育むための活動にはほとんど役に立たなかった。それまで勉強してきたことのほとんどは,“小児の病気を治す”ことを主眼に置いた医学教育であり,多くの小児科医が活動する場は疾患の治療に関係したところであるということを改めて実感した。わが国の乳幼児死亡率が世界的にも低いレベルになったのはわずか20年前であり,病気を治す医療が主な目的であったのは致し方ないことである。しかし,これまでとは異なった小児を取り巻く健康課題,例えば肥満や生活習慣病,運動不足,心の問題,虐待,貧困などが話題となるようになった現代では,小児医療の目指す方向,扱う分野も大きく様変わりしなくてはならないのではないかと思う。そして東日本大震災が発生し,多くの課題が浮かび上がったが,実

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