い。前号で示したように,肥満傾向児の発生や身体能力の改善傾向の停滞(震災前の水準には戻っていない)が続いている。保護者や教育保育現場の余裕がなくなってきたのか,子どもの健康問題を提起しても,なかなかその解決に向けた実践的な活動が進まない。こうした状況を打破するために,筆者はそれまでの保護者や教育現場向けの問題提起やサポートから,子どもに直接健康教育を行い,子ども自らがよい生活習慣へ行動を変えていくよう促す取り組みを開始した。1 Child Health Up事業(子どもに健康の大切さを伝える授業) 子どもの健康について,医師,管理栄養士,運動の専門家らが連携し,楽しみながら子どもが正しい知識を身につけ,自らが行動できるよう促す出張授業を小学校などで展開する(図1)。40~90分程度の授業時間を使用し,プレイリーダー(当院保育士)のアイスブレイクから始まり,医師や管理栄養士がそれぞれ健康にまつわる講義を行う(表1)。現場からの感想として,同じ時間内に複数の担当が変わり,講義の前後に運動遊びを取り入れるため,子どもは飽きずに授業を受けられている,同じ授業時間内に運動遊びと健康教育が同時に行えている,子どもが日常のちょっとした健康に気を遣うようになった,などの意見をいただいた。2 子どもの健康アップレンジャーショー 子どもが将来,健やかで元気な生活を送るた564後者は,郡山医師会の産婦人科医,理事のみならず,郡山市行政(男女共同参画課,こども部,教育委員会),福島県警察,ふくしま被害者支援センター,性暴力被害者支援看護職(sexual assault nurse examiner;SANE),民間団体などで組織され,性暴力の防止と被害者救済,および10代の心と体の健康教育を主な目的として積極的に活動している1)。 福島県は全国的にみて中絶実施率が高いという課題があったが,従来からの性に関する暴力対策や健康教育がこうして拡大したことは,よい意味で震災が残したレガシーかもしれない。特に健康教育では,産婦人科医が市内のほぼすべての中学校を回り,リアルな臨床現場の話しを子どもに伝えるとともに,学校現場と医師会がしっかりと地域の健康課題の解決のためにタッグを組んで活動している1つのモデルになっている。2.行動変容を促す取り組みへ 震災から時間が経つにつれ,被災地ですら忘却と風化が進行している。例えば肥満傾向児の増加や,体力・運動能力の低下といった子どもの変化が現れてきているにもかかわらず,同じ地域に暮らす人々や関係者の間でも問題意識が大きく異なっている。様々な価値観が入り乱れ,地域一丸となった取り組みや,施策が十分行われているとはいえない状況が続いている。筆者は通常の外来診療の場で,健康や生活習慣の重要性を子どもや保護者に伝えるかたわら,教育現場や行政,家庭を対象とした講演活動などを通して積極的に啓発に努めているが,実際の手応えや新たなムーブメントが始まる気配を感じることが日に日に少なくなっている。おそらく震災直後の混沌としていた雰囲気のなかで,保護者や教育保育関係者が一所懸命に状況をよくしようとしていた時期から,徐々に皆が“いつもの状態”に戻っていると感じ,その環境が固定化されてきているのかもしれない。しかし,その新たに固定化された環境は,必ずしも子どもにとって望ましい生活環境とはいえな 図1 Child Health Up事業の様子
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