423いのガイドラインを作成することに至り,ようやく県挙げての取り組みの第一歩を進むことができた。3.子どもと保護者のストレス 震災直後から精神的に不安定な子どもの様子が見られ,またPTSDの発生が危惧されたため,市内の子どもを抱えるほぼすべての家庭に,子どもの不安の対処方法を簡易にまとまたパンフレットを配布した(図6)。 上述のアンケート調査では,平成25年度に『保護者からみた子どものストレス反応』,『保護者からみた子どもの睡眠』,『保護者のストレス』についてもたずねた。『保護者からみた子どものストレス反応』については,「大人にまとわりつくことがある」,「一人を嫌がる」といった甘えに関する反応や「急な物音にびっくりする」,「癇癪を起こしたりする」といったトラウマ(警戒)がストレス反応として多くみられた。 『保護者からみた子どもの睡眠』については,「眠るときに,親が一緒にいる必要がある」,「一人で眠るのを怖がる」,「睡眠中,落ち着きがなく,よく動く」において高い割合を示す結果となった。「眠るとき親が一緒にいる必要がある」,「一人で眠るのを怖がる」は自然なことで,安心感をふくらまそうとしている幼児の表現である。幼児は怖かった体験を言葉で表現しづらく,昼間は災害ごっこなどの遊びで,夜は夢の中で受け入れがたい体験を整理しようとしているといわれる。 『保護者のストレス』については,「疲れやすく,身体がだるい」,「いらいらする,すぐに腹が立つ」が高い割合を示した。保護者のストレスと子どものストレスの関係をみてみると,保護者のストレスが高いと子どものストレスも高い傾向にあることが判明した。逆に,子どものストレスが高いために,保護者のストレスが高くなるということもあるかもしれない。保護者と子どものストレスの内容で共通しているのは,「いらいら」,「びっくり」,「寝つけない」,「夜中に目が覚める」といったことがあげられ,「落ち着くこと」,「安心できること」が保護者にも子どもにも重要であった。 子どものストレスと遊び時間の関係では,室内遊びでは30分,屋外遊びでは1時間の子どものストレスが最も低いことがわかった。遊びはただ単に子どもの運動能力を伸ばすだけではなく,心の安定にも寄与していることを示している。また,屋内よりは屋外ののびのびとした環境がより必要であることもわかった。4.災害と発達障害 今回の様々な調査により,震災後の郡山市の子どもたちの現状が明らかになった。体力・運動能力の低下や肥満傾向児の増加,メディアなどへの曝露時間の増加といった問題は,郡山や福島だけではなく,全国的にも30年前から徐々に認められていた傾向である。つまり,日本の子どもが抱えていた問題が,震災後に福島でより顕著になって現れてきたに過ぎない。こうした子どもの変化の背景には,「運動(運動あそび)・栄養・睡眠」といった基本的な生活習慣を幼少期にきちんと身につけられないことが考えられる。また,遊びとストレスとの関連も大きな示唆を与えた。子どもの心と身体の健康を保つには,望ましい生活習慣のなかで過ごし,適切な遊び環境が必要であることが平時も災害後も重要である。 最近では学校や保育現場から,手のかかる子や落ち着きのない子,気になる子が増えてきたという意見が相次いでいる。データとして明らかにはなっていないが,この傾向は震災以降に目立ってきているのではないかと現場では共通認識されている。実際に当院の外来にも,不登校や不定愁訴を訴える子ども,先頃の北朝鮮ミサイル発射に伴うアラート音でフラッシュバックしてしまった児童,保健室登校を繰り返す天気恐怖症の児童などが受診している。詳細に話しを聞いていくうちに,そのきっかけは震災後の大混乱の生活環境や不安を抱えた保護者の存在などが浮かび上がってくる。 また,筆者らとともに活動をしている児童精産婦人科の実際 Vol.67 No.4 2018
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