小児眼科領域における診断と治療 最近の進歩Ⅷ野々田 豊 Yutaka Nonoda 北里大学医学部小児科学小児科からみた昨今の小児神経小児科からみた昨今の小児神経眼科疾患の診断と治療の進歩眼科疾患の診断と治療の進歩斜視・弱視・神経眼科22はじめにはじめに 眼科医が日常的に診療する視力低下や斜視などの症状のなかに小児神経疾患が含まれていることが少なくない。これらの疾患の診療にあたっては眼科医と小児科医の協力が不可欠となることが多い。本項では眼科医が遭遇する可能性が高い小児神経疾患のなかで,代表的なものについて解説する。そのなかでも特に,近年分子標的薬の開発により,治療の進歩が目覚ましい,視神経炎と重症筋無力症に関する内容を中心に紹介する。視神経炎視神経脊髄炎スペクトラム障害1 視神経脊髄炎スペクトラム障害(neuromyelitis optica spectrum disorder:NMOSD)は重症の視神経炎と横断性脊髄炎を特徴とする中枢神経の炎症性疾患である。アストロサイトを一次的に障害する抗アクアポリン4(aquaporin-4:AQP4)抗体が発見され,NMOは多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)とは別の疾患概念として確立されるようになった。抗AQP4抗体が補体や免疫細胞などとともに自己免疫的機序により,AQP4を発現しているアストロサイトを障害する。AQP4の発現は,視神経・脊髄のほか,間脳,脳室周囲,小脳などに認められる。2015年の国際診断基準では,疾患概念が拡大され,NMOSDとして捉えられるようになった。①NMOSDの特徴と診断 小児の有病率は0.06~0.22人/10万人であり,好発年齢は30歳代後半から50歳での発症が多く小児期での発症はまれである。女性が約9割を占める。視神経炎の発症は通常は片側性で,中心暗点,盲点中心暗点をきたすことが多く,急性期には失明,あるいは同程度の非常に強い視力障害をきたすのが特徴である。眼底所見では,乳頭浮腫はみられないか軽度のことが多くMOGADとの鑑別点となる。視神経の後遺症が強い場合には乳頭の萎縮がみられることがある。頭部MRI検査では,視神経病変が視交叉から視索に及ぶ後方優位であることが多く,視神経全長の半分以上に及ぶ長い距離の病変が特徴である。 眼以外の症状では,頸髄を中心に長軸方向に沿った3椎体以上にわたる長大な横断性脊髄炎の像を示し,重度の運動麻痺,しびれなどの感覚障害,膀胱直腸障害などをきたす。延髄背側の最後野症候群により嘔吐や難治性の吃逆などの症状が出ることが知られている。また,視床下部症状として,尿崩症やSIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群),ナルコレプシーを起こすことがある。 診断基準を表1に示す。抗AQP4抗体は,典型1NMOSD,MOGAD,抗AQP4抗体,抗MOG抗体,分子標的薬Key WordsThe latest advances in treatment and diagnosis of pediatric neuro-ophthalmology from pediatric side1094
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