小児眼科領域における診断と治療 最近の進歩Management of inherited retinal dystrophyⅤ近藤寛之 Hiroyuki Kondo 産業医科大学眼科学教室遺伝性網膜変性疾患の 遺伝性網膜変性疾患の 診断と治療診断と治療網膜硝子体11はじめにはじめに 遺伝性網膜ジストロフィ(inherited retinal dystrophy:IRD)は遺伝子変異によって網膜変性を生じる疾患の総称である。IRDはさまざまな年齢で発症するが,小児期に発症する疾患が多い。近年,網膜色素変性だけでなく錐体ジストロフィや先天停在性夜盲などさまざまな遺伝性の網膜変性疾患をIRDとしてまとめて扱うようになってきた(図1)1)。IRDには厳密な定義はなく,視細胞の変性を起こす疾患だけでなく硝子体変性や網膜剝離を呈する遺伝性疾患を含むこともある。日本では2023年にRPE65遺伝子変異によるLeber先天黒内障に対する遺伝学的検査と遺伝子治療が承認され,小児のIRDの診療は遺伝子医療を実装する時代に突入した。本稿ではRPE65遺伝子変異によるLeber先天黒内障を中心に,日本での小児のIRDに関する診断と治療の現況を概説する。IRDの遺伝子と多様性 IRDは多様な疾患の総称であるが,各疾患とも原因となる遺伝子が多数知られている(図1)。IRDの遺伝子に関する情報を網羅したデータベースであるRetNet(https://retnet.org)によると現在332種類の遺伝子が報告されている(2025年5月参照)。網膜色素変性に関連する遺伝子には,視細胞の光受容蛋白質(ロドプシンやオプシン)などの光受容・伝達に関与する遺伝子や,ロドプシンやオプシンに含まれるレチノールの再合成(視覚サイクル)に関与する遺伝子,視細胞の発生に関与する遺伝子など,さまざまな遺伝子がある2)。IRDの遺伝形式も常染色体顕性(優性)遺伝や常染色体潜性(劣性)遺伝,X連鎖性遺伝などさまざまである。遺伝形式は遺伝子ごとに異なるが,1つの遺伝子が2つ以上の遺伝形式を示すこともある。また,遺伝子のなかには同じ遺伝子の異常でも異なる疾患を示すものもある(図1)。たとえばABCA4遺伝子は常染色体潜性Stargardt病の原因遺伝子であるが,常染色体潜性網膜色素変性や常染色体潜性錐体杆体ジストロフィの臨床像を示すタイプがある。臨床像の違いは遺伝子変異(DNAバリアント)が引き起こす異常の違いによることが多い。遺伝子の機能喪失の程度や,遺伝子が本来持たない新たな分子生化学的な影響(機能獲得)などがある。機能喪失タイプの異常は潜性遺伝を示しやすく,機能獲得を伴う異常は顕性遺伝を示しやすい。IRDの臨床診断 IRDの診断は問診によって,夜盲や視力低下など12遺伝性網膜ジストロフィ,IRD,パネルシークエンス,遺伝子治療,RPE65,Leber先天黒内障Key Words992
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