5副腎皮質ステロイド薬投与の弊害AK初期では角膜病変のわりに疼痛や炎症が強いため,診断前に副腎皮質ステロイド薬の点眼投与が処方されていることがある。ハムスターを用いた実験的研究によると副腎皮質ステロイド薬投与によりAK発症1週間後,2週間後,3週間後,5週間後のすべての時点で有意に重症化しており,in vitroの実験では副腎皮質ステロイド薬投与によりトロホゾイトの増殖や脱シスト化が促進されたと報告されている20)。ヒトでは副腎皮質ステロイド薬投与の有無により実際にAKが進行するかどうかは比較検討できていないが,後ろ向きに検討すると診断前の副腎皮質ステロイド薬投与によりAKが重症化,遷延化していたとの報告は多数されている3)〜8)。これは診断治療前の副腎皮質ステロイド薬投与により放射状角膜神経炎や偽樹枝状病変などの初期の特徴的所見が隠蔽され,一見改善するものの結局は治癒していないため治療が遅れることも原因のひとつと考えられる。6予 後早期診断,早期治療がなされた場合は良好な視力が保たれることが多い21)〜23)。濃厚なアメーバの曝露を受けた場合や診断治療前の副腎皮質ステロイド薬投与で重篤な視力障害を残すことがある3)〜8)。AK治癒後に高度な角膜混濁をきたしても長期に経過をみることで徐々に透明化する傾向にあるが,最終的に高度な視力障害が残存した場合は角膜移植も検討する。1059きるようになるため角膜上皮細胞の細胞毒性効果を減少させることも可能となる19)。このような新規治療薬が次々と開発されることが望まれる。AKの一部には進行の急速なタイプがあり24)〜26),治療の遅れが視力予後を左右する。塗抹検鏡だけでは精度の高いアメーバの検出は困難であり,施設によっては分離培養やPCRの結果待ちに時間を要する。そのため臨床所見による診断が重要な場合がたびたびある。偽樹枝状病変などの線状の角膜病変27)や放射状角膜神経炎などの特徴的所見がみられAKを強く疑った場合は,アメーバ検出による確定診断が得られなくても三者併用療法開始を早期に検討する必要がある28)。また副腎皮質ステロイド薬の投与はAKの重症化や遷延化の原因となり得るため,原因不明の角膜炎に対して安易に副腎皮質ステロイド薬を投与することは慎むべきである。文献 1) Nagington J, Watson PG, Playfair TJ et al:Amoe-bic infection of the eye. Lancet 2:1537-40, 1974 2) 石橋康久,松本雄二郎,渡辺亮子ほか:Acanthamoe-ba keratitisの1例 臨床像,病原体検査法および治療についての検討.日眼会誌 92:963-72, 1988 3) 森谷充雄,子島良平,森 洋斉ほか:アカントアメーバ角膜炎に対する副腎皮質ステロイド薬投与の影響. 臨眼 65:1827-31, 2011 4) 太刀川貴子,石橋康久,高沢朗子ほか:初期から完成期に至るまで経過観察できたアカントアメーバ角膜炎の1例.眼紀 46:1035-40, 1995 5) 佐々木美帆,外園千恵,千原秀美ほか:初期アカントアメーバ角膜炎の臨床所見に関する検討.日眼会誌 114:1030-5, 2010 6) 住岡孝吉,岡田由香,石橋康久ほか:早期診断にもかかわらず治療に難渋した両眼アカントアメーバ角膜炎の1例.眼臨紀 7:946-51, 2014 7) 平野耕治:急性期アカントアメーバ角膜炎の重症化に関する自験例の検討.日眼会誌 115:899-904, 2011 8) 高橋 博,古藤田優実,古屋敏江ほか:眼球摘出に至ったアカントアメーバ角膜炎. 臨眼 68:477-81, 2014 9) 石橋康久:【眼感染症診療ガイド】 アカントアメーバ角膜炎.臨眼 57(臨増号):176-81, 2003 10) 石橋康久,宮永嘉隆:アカントアメーバ角膜炎.日本の眼科 79:721-6, 2008 11) 石橋康久:最近増加するアカントアメーバ角膜炎 報告例の推移と自験例の分析.眼臨紀 3:22-9,2010おわりに
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