2臨床的な特徴糸状菌による角膜真菌症は,酵母型真菌によるものより重篤である2)こと,およびどのような症例が糸状菌感染をきたしやすいかを知っておかねばならない。それには,わが国における角膜真菌症の発症原因を捉える際の有用なコンセプトとなっている,「農村型」と「都市型」の分類3)を理解すると良い。前者は,外傷時に真菌が直接角膜に持ち込まれる場合ゆえ,環境由来の種々の糸状菌感染であることが多く,後者は,眼表面菌叢撹乱の結果,眼表面や涙嚢に常在していた真菌が異常に増殖して起炎菌となる日和見感染症のため,酵母型真菌による場合が多い。無論,この2病型ですべての角膜真菌症をクリアカットに分類できるわけではないことも,念頭に置いておく必要はある。1糸状菌 3診断のポイント感染症診断の基本は,病巣からの起炎菌の分離だが,真菌の分離培養には時間がかかることが多い。株によっては,平板培地に摂取され1か月以上経過しないとコロニーを形成しないものもある4)。よって臨床現場における角膜真菌症の診断は,角膜擦過物の塗抹検鏡に依るところが大きい。しかし,細隙灯顕微鏡での角膜実質内を菌糸が進展している像といわれる羽毛状潰瘍(hyphate ul-3糸状菌感染症(filamentous fungi, mold)1041* Fumika HOTTA,Hiroshi EGUCHI 近畿大学医学部堺病院眼科スライドカルチャー真菌には,菌糸(hypha)と呼ばれる管状あるいは筒状の細胞が分枝し(図1),その先端が成長して菌糸体(mycelium)と呼ばれる菌糸の集合体を形成するものがある。そのような,菌糸による多細胞の菌類のことを,単細胞の菌類である酵母に対して,糸状菌(filamentous fungi, mold)と呼ぶ。糸状菌には,菌糸に隔壁を持つもの(図2)と持たないものがある。古来,人類は糸状菌の恩恵を大きく受けてきた。人類が初めて発見した抗生物質であるペニシリンが,糸状菌であるPenicillium chrysogenumが産生する物質に由来したことは有名である。温暖湿潤気候の日本においては,醸造や発酵の食文化において糸状菌を有効利用してきた(図3)。糸状菌感染の頻度は環境の影響を受け,熱帯や亜熱帯気候の国に多いといわれている1)が,温帯気候の国でも多くの報告がある。事実,日本でも各科が重篤な糸状菌感染症に悩まされてきた。原則として眼表面に糸状菌は常在しておらず,外界から眼表面に持ち込まれるため,日本において糸状菌による角膜真菌症は起こりやすいとの認識が無難である。K ey words :角膜真菌症,糸状菌,ファンギフローラYⓇ染色,堀田芙美香* 江口 洋*角膜真菌症アップデート
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