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1涙囊炎 1 病態6涙道感染症* Akemi IWASAKI 宮久保眼科(前橋市)/群馬大学医学部眼科学教室涙道の細菌感染症の代表は涙囊炎と涙小管炎である。どちらも流涙や目やにの自覚症状がある。「涙道感染症があるかも」と眼科医が気にしていれば診断は可能であるが,眼科医が気づかないと,涙道の細菌感染症は何十年と患者を苦しめ,角膜白斑による視力低下や,抗生物質の長期使用によりメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-re-sistant Staphylococcus aureus:MRSA)を作り出すこともある。一方,眼科医が涙道の細菌感染症と気づいていても,患者自身が観血的治療を嫌がり,対症療法のみを希望することも多い。現在は,滑車下神経ブロック1)の普及,涙道内視鏡の登場2)3),手術方法の改良により,涙道治療は「痛くない」「こわくない」に変わってきている。また,白内障術後眼内炎と涙囊炎に関しての大規模なスタディは行われていないが,白内障術後眼内炎の起炎菌と涙道疾患患者から検出される菌には一致する部分も多く,涙道疾患が,白内障術後感染性眼内炎の危険因子のひとつであると推察される4)。術後眼内炎予防の観点からも,涙道の細菌感染症はきちんと治療しておきたい疾患である。本稿では,涙囊炎・涙小管炎の病態,臨床像と所見,治療について解説する。涙囊炎とは涙囊以下の鼻涙管が閉塞することで,閉塞部より上部の鼻涙管,涙囊に膿がたまる疾患である。炎症が遷延化したために線維性癒着が発症し閉塞すると考えられている5)。閉塞する原因には細菌・ウイルス・真菌などの感染,Wegener肉芽腫・サルコイドーシス・点眼薬・放射線治療などの炎症,腫瘍,外傷,耳鼻科や口腔外科による手術などが挙げられる6)。慢性涙囊炎は女性に多く,涙液分泌低下や化粧品の使用なども原因として示唆されている7)。正常な涙囊や鼻涙管粘膜上皮は結膜と同様に杯細胞が存在し,ムチンを分泌している。一方,慢性涙囊炎では杯細胞の消失と涙囊上皮の扁平上皮化生がみられ,細菌の吸着に関与して抗菌作用をもつムチンが減少するために細菌感染を生じやすいと考えられている8)9)。慢性涙囊炎の経過中に炎症が増悪し,涙囊周囲炎や涙囊周囲蜂巣炎を生じた状態が急性涙囊炎である。起炎菌は,慢性涙囊炎ではブドウ球菌,肺炎球菌,β溶血性レンサ球菌,緑膿菌,肺炎桿菌,腸内細菌,または放線菌や真菌の混合感染が多い。一方,急性涙囊炎では,ブドウ球菌,緑膿菌,プ151Vol.58 No.2 2016岩崎明美*K ey words :涙囊炎,涙小管炎,涙道感染症,鼻涙管閉塞はじめに特集眼の細菌感染

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