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2発症背景全身的にはNICU入院歴のある新生児,高齢者,長期入院,老人保健施設入所者,糖尿病,アトピー性皮膚炎という背景があるとリスクが高い2)。また,医療関係者も鼻腔,咽頭に保菌していることがあり,ハイリスクである。眼局所的には副腎ステロイド薬点眼,長期の抗菌薬点眼(常在細菌叢のバランスが崩れ菌交代現象を生じている状態),Stevens-Johnson症候群や眼類天疱瘡などの瘢痕性角結膜上皮疾患2),アトピー性角結膜炎7)もリスクが高い(表1)。新生児(NICU入院歴)高齢者長期入院施設入所者糖尿病アトピー性皮膚炎医療関係者成を阻害することで抗菌作用を発揮する。しかし,MRSAやMRSEはmecAという遺伝子をもっており,mecAとその制御遺伝子のmecI,mecR1や挿入配列などの関連遺伝子を含んだDNA断片としてSCC(staphylococcal cassette chromosome)mecを形成して染色体に組み込まれる。SCCmecを持つ菌はβラクタム系抗菌薬と結合親和性の低いPBP-2́を産生する。その結果βラクタム系抗菌薬存在下でも細胞壁合成が行われ,かつβラクタム系抗菌薬が結合できないため耐性を示し,菌が増殖する1)3)。 3 院内感染型と市中感染型MRSAには病院で院内感染の原因となる院内感染型MRSAと,市中でも認められる市中感染型MRSAがある。臨床的に院内感染型MRSAとは入院後48時間以後に分離されるMRSAのことで,感染のリスク因子は①入院あるいは手術,②長期療養施設への長期の入所,③透析,④カテーテル等の留置などである。50歳以上の易感染者が感染を起こしやすい。分離は痰や咽頭粘膜,膿,血液等が多い。市中感染型MRSAは「従来の院内感染型MRSAのリスク因子が該当しない患者から分離されたMRSA」と定義され,過去1年以内に入院歴がない外来患者から分離されたMRSAを対象にする。感染者の多くは小児から青年層で,皮膚接触によって感染する4)。市中感染型MRSAは従来の院内感染型MRSAに比較して病原性が強い。黄色ブドウ球菌はコロニースプレッディングと呼ばれる培地上に巨大コロニーを形成する能力を持つ。院内感染型MRSAはコ全身副腎ステロイド薬点眼長期の抗菌薬点眼瘢痕性角結膜上皮疾患アトピー性角結膜炎角膜移植術後局所表1MRSA感染症の主な発症背景ロニースプレッディング能と毒素産生能が低いため病原性は弱いが,バイオフィルム産生能が高いという特徴をもつ。反対に市中感染型MRSAはバイオフィルム産生能は低いがコロニースプレッディング能と毒素産生能が高いため病原性が強く,psm-mec遺伝子の有無がこの現象に関与していると報告されている5)。 4 バンコマイシン低感受性・耐性MRSAバンコマイシンはMRSA感染症の第一選択薬であるが,1996年に日本からバンコマイシン低感受性黄色ブドウ球菌(VISA)の臨床分離株が報告された6)。さらに,2002年には,米国でvanAタイプのバンコマイシン耐性遺伝子を獲得したMRSAが世界で初めて分離された。バンコマイシン耐性は,その遺伝子群が伝達性プラスミドに担われて腸球菌間に広がり,さらに腸球菌からMRSAにバンコマイシン耐性プラスミドが伝播することが確認されている。バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)はヨーロッパ,米国をはじめ世界中に広がっている。わが国でもVRE感染症は各地でみられ,集団感染例も報告されている。今後VREの増加に伴い,バンコマイシン低感受性・耐性MRSA感染症も爆発的に増加する可能性があり,厳格な標準予防策,接触予防策が必要である。138

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