1MRSAについて 1 定義図1 MRSAのグラム染色写真(京都府立医科大学 4MRSAと眼* Yuka HOSOTANI 兵庫医科大学眼科学教室K ey words :MRSA,ブドウ球菌,院内感染型MRSA,市中感染型MRSA,バンコマイシン素を産生しており,表皮ブドウ球菌に比べて強い病原性を示す1)。MRSAは「メチシリンに対する最小発育阻止濃度(MIC)が12.5μg/mL以上,またはクロキサシリンに対するMICが25μg/mL以上」と定義され,メチシリンのみならずβラクタム系抗菌薬(セフェム系,ペニシリン系)にも耐性を示す2)。また,病原性は弱いもののメチシリン耐性表皮ブドウ球菌(methicillin resistant Staphylococcus epidermidis:MRSE)も存在し,感染症の原因となる。 2 耐性メカニズムブドウ球菌は細胞壁を合成する酵素としてpenicillin-binding protein(PBP)を有しており,βラクタム系抗菌薬はこれと結合して細胞壁の合横井則彦先生のご厚意による)角膜炎患者(図3)の眼脂塗抹標本。グラム陽性球菌を多数認める。薬剤感受性試験の結果,MRSAと判定された。137Vol.58 No.2 2016メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin re-sistant Staphylococcus aureus:MRSA)(図1)は1990年代には「現代医学の不吉な鬼っ子」などと言われ,社会的にも話題となったが,近年はありふれた細菌になってしまい,もはや特別で危険な細菌という印象は薄れている感がある。しかし,市中感染型MRSAの出現や,バンコマイシン低感受性・耐性MRSAの出現など,MRSAをとりまく状況も刻々と変化しており,最新の知識を得ておくことはわれわれ眼科医にとっても重要である。本項では最近のMRSAに関する話題と眼科感染症の特徴,治療について述べる。ブドウ球菌は眼科領域ではよく分離されるグラム陽性球菌であり,黄色ブドウ球菌と表皮ブドウ球菌が重要である。表皮ブドウ球菌は結膜囊内の常在菌で,通常の状況では病原性を示さない。黄色ブドウ球菌は溶血毒α・β・γ・δ,コアグラーゼ,ヒアルロニダーゼ,リゾチーム,ロイコシジン,エンテロトキシンなどの種々の毒素や酵細谷友雅*特集眼の細菌感染はじめに
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