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1.運動障害
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運動障害
運動障害
には,筋力や持久力の低下,筋萎縮による筋出力の問題,拘縮・強直による関節可動域制
限,運動失調や痙縮・固縮による随意運動制御の問題が含まれる。本項では,これらを評価する上で理
解しておくべき病態とその評価法について述べる。
A
筋力低下
筋力低下
(muscle weakness)とは,筋収縮に
よって発生する張力が低下した状態である。筋張
力は,アクチンフィラメント(actin filament)とミ
オシンフィラメント(myosin filament)の滑走によ
る筋の収縮要素(contractile component),筋・腱
の弾性要素(series elastic component)および筋
膜・結合織の弾性要素(parallel elastic compo-
nent)によって発揮される(図4-1a)
1)
。歩行や跳
躍動作において腱などが伸張されることで蓄えら
れる弾性エネルギーは,運動の効率に大きく関与
するが,筋力低下の評価においては筋収縮要素に
関する生理学的知識と関節運動に関する運動学的
知識が重要になる。
1.
長さ-張力曲線
筋原線維の最小構成単位である筋節(sarco-
mere)の長さは,Z膜に接続したアクチンフィラ
メントがミオシンフィラメントの頭部との間に架
橋(cross bridge)を形成して滑り込むことで短縮
する。これが筋収縮である。筋節の長さが長いと
アクチンとミオシン頭部との間に架橋を形成する
ことができず(図4-1b-①),一方,筋節の長さ
が短くなると興奮収縮連関の活性度が低下し,滑
り込む余地がなくなれば短縮できなくなる(図
4-1b-⑥)。このように,伸長位でも短縮位でも
筋収縮によって発揮される筋張力は低下する。
例えば,手を握る際には,手指屈筋群が筋張力
を発揮しやすい至適な長さとなるように,手関節
伸筋群によって手関節が伸展位に保持される。し
たがって,橈骨神経麻痺によって手関節伸展位が
保持できなくなると握力は低下する。ゆえに,握
力を計測する際には手関節角度などの評価肢位の
規定が重要になる。
2.
運動単位と筋力
脊髄前角細胞の運動ニューロンは,複数の筋線
維を支配して
運動単位
を形成する。大きな力を出
すことができる筋肉は,多数の運動単位によって
支配されている。一つの運動単位が発揮する筋出
力は,単収縮(twitch)の速度が遅い
遅筋
(slow
twitch muscle)と速い
速筋
(fast twitch muscle)
のどちらを支配しているかで規定される。弱い力
から徐々に力を強くしていく課題では,単収縮の
張力が小さな運動単位の
発射頻度
(
firing rate
)を
高めていき,ある筋力を超えるとより大きな張力
を発揮できる運動単位が
動員
(
recruitment
)され
て,その発射頻度を高めていく。このように,小
さな運動単位から大きな運動単位へと序列的に動
員されることを
サイズの原理
1)
という(図4-2)。
筋張力の微細な調整が必要な場合には,単収縮
の張力が小さな遅筋の発射頻度を変えることで力
の入れ具合を調整する。手内筋群や姿勢調節に関
与するヒラメ筋には遅筋の比率が高い。これに対
機能障害の評価
Chapter
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