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chapter 3 リハビリテーション診断
3.
機能予後診断
神経束の中の,正常,neurapraxia,axonot-
mesis,neurotmesis線維それぞれの割合で回復
経過は異なる。neurapraxiaのみの病巣,すなわ
ち伝導遅延やブロックが主体で,脱神経電位がな
い状態では急速な回復が期待できる。一方,脱神
経電位を認め,伝導性のある線維数の少ない状
態,すなわちM波振幅が小さい軸索変性主体の
病巣では回復に長期間を要する。
伝導ブロック
は病巣を挟んで刺激した2つのM
波振幅の比をもって判定するが,Bell麻痺や腕神
経叢麻痺などの近位病巣では距離を開けて2カ所
を刺激することは困難である。そのような場合に
は,病巣遠位部の刺激でM波振幅を健側と比較
して判定する。低下がなければneurapraxia病
巣,低下していれば軸索変性を伴ったaxonotme-
sisもしくはneurotmesisと判定できる。一般に,
振幅比が1
/
10以下の場合は軸索変性主体で予後
不良の障害とされる。
EMGでは随意収縮時の
運動単位電位
(motor
unit potential;
MUP
)の出現とその数の増加で再
神経支配の過程を追跡する。筋線維への再神経支
① neurapraxia = 節性脱髄(著明な伝導遅延と伝導ブロック) → 早期の回復・正常化
髄鞘傷害(節性脱髄)
髄鞘
軸索
Ranvier絞輪
正常化(早期)
② axonotmesis = 軸索変性(伝導性欠如) → 再生による回復(軽度の伝導遅延)
軸索傷害Waller変性
再生(1~2mm/day)
③ neurotmesis = 軸索変性+神経内膜断裂(伝導性欠如) → 回復不能
再生なし
神経内膜・軸索断裂
■
図3-1
Seddonの末梢神経傷害分類
▶
neurapraxiaは髄鞘のみの傷害で,伝導検査で著しい伝導速度低下あるいは伝導ブロックを認める(
図3-6参照)。原因が取
り除かれれば,数日〜週単位で急速に伝導性は回復する。axonotmesisでは軸索も傷害され,末梢へ向けて数週をかけて
Waller変性が完成する。神経の再生は1〜2mm
/
dayと遅く,回復には長期間を要する。なお再生線維は径が小さく,
Ranvier絞輪間隔も短いため,neurapraxiaほどではないが伝導速度は低下する(
図3-6参照)。neurotmesisは軸索に加え,
神経内膜が破壊された状態で,再生基盤を失うために神経は再生しない。なお,軸索の傷害の有無は支配筋線維の安静時異
常電位(いわゆる脱神経電位)で確認できる(
図3-9)。