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第3章 認知症の リハビリテーション・ケアの実践
同じ話ばかり何度も繰り返す。答えても答えても同じことを質問する。周
囲はイライラ、うんざり。ときには、そういった感情がつい言葉や態度に出
てしまい、無視したり、きつい口調で叱ったりしてしまうことも…。日常茶
飯事のこんなやりとり、どう対処すればいいのでしょうか。
自分が言ったことをすっかり忘れてしまうということは、私たちには生じ
ません。もし、記憶をなくすことがあるとすれば、お酒や 睡眠薬を飲みすぎ
たときくらいでしょうか。このような忘れ方をする場合には、認知症が疑わ
れます。
つまり、認知症患者さんは、自分がそのことを話した過去を覚えていない
のです。本人は、そのことについて、まったくはじめてのつもりで言ってい
るのです。
また、同じことを聞くのは、何回も確認しなければならないほど本人に
とっては大切なことの場合もあります。心配性の人であれば、けっして忘れ
ないように必死になって繰り返したずねているのです。
このような 記憶の障害は、認知症の 中核症状であり、まさに認知症の本質
です。忘れているということ自体を忘れる、本人が気づいていない、それが
この病気の代表的な症状です。
その行為の意味を考えてみる
1
ステップ
話したこと、聞いたことをまったく忘れた経験はありますか?
認知症患者さんは何が欠けているのか判断する
2
ステップ
忘れたということ自体に気づいていない
何度も同じことを言ったり、聞いたりする
2
実践
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第3章 認知症の リハビリテーション・ケアの実践
一方、感情はかなり後期まで保たれています。認知症患者さんにも心があ
り、自尊心があります。すっかり忘れてしまった記憶の中で生きていかなけ
ればならない、とてもつらい病気であることを思ってみてください。あくま
でも、本人にとってははじめて口に出した質問であり、話しかけなのです。
私たちでも、せっかく相手に話しかけた言葉がないがしろにされると、とて
も悲しくなり、喜んでくれるとまた話したくなるのと同じように、認知症患
者さんも相手の表情を含めて反応をみているのです。
認知症患者さんは、たったいま経験したことも記憶できない世界に住んで
います。覚えているということがない世界の中で日々暮らしています。忘れ
たことそのものに気づかない人に対して、自尊心を傷つけないよう会話をす
るには、どのようにしたらいいかを考え、接しましょう。
せっかく話しかけても、嫌な反応しかない場合には、話すことが嫌になり、
ますます自分だけの世界に閉じこもり、知的活動をしないようになってしま
います。逆に、生き生きと会話を楽しめるようにすることが、認知機能を少
しでも賦活させると思います。
認知症患者さんは、はじめてその話をしているつもりでいるのです。それ
なのに「そんな話さっき聞いた」と言われたらどのように感じるでしょうか。
とても嫌な気分になるか、これ以上話すとまた同じ過ちを繰り返してしまう
と思い、言葉数が少なくなってしまうのではないでしょうか。
認知症患者さんが同じことを何回話したとしても、本人にとってははじめ
ての話なのです。飽き飽きしてしまうかもしれませんが、その話をはじめて
聞いたときと同じ対応をしてほしいです。また、何回も話すくらい、本人に
とってとても大切な事柄であると気づいてほしいと思います。
目的を実現するにはどうしたらよいのか対策を立てる
3
ステップ
自尊心を傷つけない。心配の種になることは言わない
対 策
1
同じ話ばかりする人には