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章.rTMS治療とリハビリテーション

高頻度rTMSと低頻度rTMS

Barker

 1)

が報告したように,TMSは当初,末梢の筋肉におけるMEPの測定を主目的

とした生理学的検査に用いられていた。しかし,その後,反復性経頭蓋磁気刺激(repet-
itive transcranial magnetic stimulation;rTMS)として,連続的にTMSを適用して
刺激を行うと,局所大脳皮質の機能変化を引き起こすことがわかってきた。すなわち,
rTMSの適用が脳の「可塑性」に影響を与えることが明らかとなってきたのである。

rTMSの内容,すなわち大脳皮質に与える影響を決定するパラメーターとしては,刺激

部位以外に,下記の三つの要素が挙げられるが,これらのなかでも特に刺激頻度が重要な
ものと考えられる。
①刺激頻度(1秒間に何発刺激するか。Hzで表す)
②刺激強度〔慣習的にTMSの刺激強度は,運動閾値(筋活動が誘発できる最小の強さ)

の何パーセント(%)として相対的に表す〕

③刺激時間(何発の刺激を与えるか)

なぜなら,刺激頻度によって,rTMSが大脳皮質に与える影響が大きく異なることが確

認されてきたからである。一般に,5Hz以上の場合を高頻度rTMSと称し,1Hz以下
の場合を低頻度rTMSと称するが,結論を述べると,高頻度rTMSが刺激部位の局所神
経活動を亢進させるのに対し,低頻度rTMSは逆に刺激部位の局所神経活動を抑制する
ことが明らかになった。すなわち,刺激頻度によってrTMSの大脳皮質への効果は,
まったく反対のものになるのである。

高頻度rTMSが大脳皮質の局所神経活動を亢進させる報告として,Pascual-Leone

2)

は,運動閾値の150%の強度の刺激を20Hzの頻度で10発(持続時間0.5秒間)

大脳皮質一次運動野に与えたところ,同じ強度の一次運動野刺激によって誘発される
MEPの振幅が約3分間にわたって増加したと報告した(同じ強度の刺激に対して,誘発
されるMEPの振幅が大きくなった場合,大脳皮質一次運動野の活動性・興奮性が亢進し
たものと解釈される)。これと同様に,Wuら

3)

は,運動閾値の120%の強度の刺激を

15Hzの頻度で30発(持続時間2秒間)与えたところ,その後90秒間において,誘発
されるMEPの振幅が大きくなったと述べている。さらに,運動閾値下の刺激を用いた報
告として,Maedaら

4)

は,運動閾値の90%の強度の刺激を20Hzの頻度で240発(持

続時間12秒間)与えたところ,MEPの増幅が2分間にわたって確認されたと報告した。
そして,運動閾値下の刺激によって大脳皮質の局所活動性に変化を与えるためには,より
長い時間にわたって刺激する必要があると述べている。

一方,低頻度rTMSが大脳皮質の局所神経活動を抑制させる報告としては,Chenら

5)

によるもの,Maedaら

6)

によるものなどがよく知られている。Chenら

5)

によると,運

動閾値の115%の強度で0.9Hzの低頻度rTMSを一次運動野に810発(持続時間15分
間)適用したところ,適用終了後15分間以上にわたって,刺激側の運動閾値が上昇し

(同じ強さの刺激に対して反応が出現しにくくなり),誘発されるMEPの振幅が小さく

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