(OccupationalSafetyandHealthAdministration:OSHA)は「職場における殺細胞(抗

腫瘍)薬取り扱いのためのガイドライン」を発表した。HDという用語は,1990年に米国
医療薬剤師会(AmericanSocietyofHealth-SystemPharmacists:ASHP)により提唱
された概念である

3)

。その後,ASHPの定義をもとに,OSHA

4)

,国際がん薬剤学会

(InternationalSocietyofOncologyPharmacyPractitioners:ISOPP),米国がん看護

学会(OncologyNursingSociety:ONS)がHDの安全取り扱いに関する文書を作成して
いる。2004年に米国疾病管理予防センター(CentersforDiseaseControlandPrevention:
CDC)の組織である米国国立安全衛生研究所(NationalInstituteforOccupational
SafetyandHealth:NIOSH)がNIOSHAlertを作成し,現在も広く利用されている。

HD曝露による健康への悪影響を最小限にして職場の汚染を減らすため,医療従事者

やその他HDに接触する人はHDを慎重に取り扱う必要があり,HDの定義は,医療従
事者が安全な取り扱いの提言をどの薬剤に適用すべきかを認識するために重要とな
る

5)

。ASHPの定義では,①発がん性,②催奇形性,③生殖毒性,④低用量での臓器障

害,⑤遺伝毒性の5項目が挙げられている

3)

。その後NIOSHにより定義が改訂され,⑥

既存のHDに類似した化学構造および毒性プロファイルの項目が追加された

6)

。人間ま

たは動物に対して前記6つの項目のうち1つ以上に該当するものをHDと定義し,
NIOSHはそのリストを公開し,2年ごとに更新している。HDの多くは抗がん薬である
が,ほかにも抗ウイルス薬,ホルモン誘導体,免疫抑制薬などの医薬品も含まれる。
ISOPPは①〜④の4項目をHDの定義としているが,ONSはNIOSHの定義を採用して
いる。

発がん性については,世界保健機関(WorldHealthOrganization:WHO)の一機関で

ある国際がん研究機関(InternationalAgencyforResearchonCancer:IARC)におい
て,がんの発生率を増加させる,がん発生前の潜伏期を短縮する,または悪性腫瘍増殖
の重症度を増強する可能性があれば,それらの薬剤を発がん性物質として分類すること
が提唱され,リストが公開されている(

資料4

:p150参照)。

NIOSHによって初めて発表された6番目の基準は,新薬について,既存の情報や類

似薬剤から推測できるデータを用いて十分に評価すべきであることを再認識させる役割
を担っている

5)

。ASHP(2006年)は,薬剤に関してそれが有害か否か判断するには十分

な情報が得られていない場合は,すべて有害とみなす必要があると明記している。ま
た,施設で薬剤を初めて導入する際,承認済の薬剤や治験薬を含めすべての薬剤につい
て有害性を評価することが推奨されている

7)

。本邦において,自施設におけるHDリス

トを作成する場合,医療従事者が医薬品を有害なものとして扱うべきかどうかを評価す
る際の補助となる情報源として,ONSにより紹介されているものを記載した(

表7

)

5)

また,NIOSHHDリストをもとに作成した,本邦で承認されている薬剤のリストを巻
末に掲載した(

資料2,3

:p122,136参照)。これらをもとに,施設ごとにHDリストを

作成することが望ましい。

第2章 背景知識と推奨・解説 

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