VI
章
ストーマ周囲皮膚合併症
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装具着脱などによる長期的な刺激によって徐々におこる色素沈着に比べて,色素沈着
の色が強く,症状のない皮膚との境界が明確であることが特徴である。
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ストーマ造設者が面板を剥離する際に剝がし始める部分,粘着テープ部分など,化学
的刺激,物理的刺激の強い部分に著明に出現する傾向がある。
2)分子標的薬 Moleculaer targeted agentsによるストーマ周囲皮膚障害
a)発生機序
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分子標的薬は,がん細胞の増殖や分化に関わる特定の分子を阻害して,がんの増殖を抑制
する抗がん剤で,有害事象として皮膚障害が高率に現れる。
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皮膚障害の発生機序について,代表的な分子標的薬であるイレッサ
®
,タルセバ
®
,アービ
タックス
®
などのEGFR阻害薬では,多くの腫瘍に発現する上皮成長因子受容体である
EGFR(epidermal あるいはepitherial growth factor receptor)を阻害する作用によって,
正常な表皮の基底細胞,脂腺細胞,外毛根鞘細胞,平滑筋細胞,エクリン汗腺真皮内管,
爪母細胞などにも存在して,皮膚や毛包,爪の増殖や分化に関与しているEGFRにも影響
し,角化異常や爪母細胞の分化異常を起こさせていると考えられている。
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皮膚障害の形態や症状,および病理組織診断から,分子標的薬によって起こる皮膚障害は,
これらの作用によっておこる血流障害も原因の一つであることが推察されているが,詳細
な発生機序はいまだ明確ではない。
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分子標的薬治療を受けるストーマ造設者では,EGFR阻害の状況にストーマ装具の加重や
剥離などの物理的刺激,排泄物や皮膚保護剤の化学的刺激,感染源や水分を含む排泄物の
接触など,通常のストーマ周囲皮膚障害の発生リスクが加わるので,ストーマ周囲皮膚障
害は必発と考えられる。
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EGFR阻害の皮膚に対して,定期的なストーマ周囲皮膚の洗浄,皮膚保護剤製面板の使用,
装具の定期的交換,装具アクセサリーの使用などの一連のストーマケア,特に静菌作用・
緩衝前作用・保温保湿作用のある皮膚保護剤のよる皮膚保護環境や,創傷治癒環境が,予
防的に対応していることを示唆させるが,その実際は不明である。
b)症 状
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分子標的薬で起こる皮膚障害は,殺細胞性抗がん剤による粘膜・皮膚障害とは異なる特徴
を持っている。
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EGFR阻害薬の場合では,発疹はざ瘡様皮疹として現れ,個疹が大型で,疼痛や灼熱感を
伴い,無菌性炎症であることが特徴である。口内炎の場合には“打ち抜き”型で境界が明
瞭な限局性潰瘍となる。
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マルチキナーゼ阻害薬において特徴的な手足症候群の場合でも,紅斑や落屑などの症状に
加えて足底部などに大きな水疱形成が現れたり,爪囲炎の場合には荷重部位ではなくても
深い亀裂となって多発することが多い。
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分子標的共通の症状としてdry skinがあり,極端な皮膚乾燥による亀裂や爪囲炎の助長や
皮膚瘙痒症に発展することがある。
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総じていうと,殺細胞性抗がん剤による皮膚障害が広範囲での深さが浅い創傷として現れ
ることに対して,分子標的薬によるものは限局的で深さのある創傷となって現れるといえ