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第1章
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健康の概念と公衆衛生学
3 予防の概念
広い意味での公衆衛生は,人びとの健康を守り育て,疾病を予防し,医療の充
実を図り,患者や障害者の社会復帰を促進するとともに,環境を保全し,社会の
活力を高める総合的な機能をさす。また,狭い意味では人びとの健康を保持・増
進し,疾病を予防し,保健・医療・福祉に関する社会資源の整備と有効な活用を
図り,身体的にも,精神的にも,社会的にも個人と社会の能力を十分に発揮させ
る機能をさす。
現在,公衆衛生の定義で最も広く認められているのは,
ウインスロー
(Charles
Edward A. Winslow)
の定義
である。
ウインスローは「公衆衛生とは,環境衛生の改善,伝染病の予防,個人衛生の
原則についての教育,疾病の早期診断と治療を行うことのできる医療と看護
サービスの組織化,および地域社会のすべての人に健康を保持できる適切な生
活水準を保障する社会制度の発展のために,共同社会の組織的な努力を通じて
疾病を予防し,寿命を延長し肉体的・精神的健康と能率の増進をはかる科学で
あり,技術である。その恩恵により,すべての市民が健康と長寿という生まれな
がらの権利を実現できる」としている。
すなわち現代の視点からすれば,ウインスローのいう地域社会の努力とはま
さに,国や地方公共団体による
「公」的活動
と,住民の協力による
「私」的活動
とが
組織的に結合された地域保健計画に基づく活動
であって,広義の公衆衛生
にほかならない。また,急速な経済成長を遂げたわが国にとっては,国際社会に
おける公衆衛生の発展に貢献するためのWHOを中心とした国際交流,援助計画
などの行政も大きな課題であろう。ウインスローの公衆衛生の概念図を
図1-2
に示す。
ウインスローの定義から,公衆衛生の目的は「
健康の保持・増進
,
寿命の延
長
,
疾病の予防
」と導くことができる。疾病の予防の学問的大系は予防医学
(preventive medicine)で扱われ,疾病の進行段階である,感受性期,発症前期,
臨床的疾病期によって,それぞれ
一次予防
,
二次予防
,
三次予防
に分類されてい
る(
表1-1
)。
❷
公衆衛生の定義
❸
予防の概念