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6 ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチ
第1章
●
健康の概念と公衆衛生学
あることを強調している。さらに,疾病予防のように単に悪い状態になるのを
防ぐという消極的姿勢ではなく,人びとが自発的に健康を向上させる力をもつ
という積極的な姿勢も,ヘルスプロモーションの特徴である。
集団に対する健康増進や疾病予防対策として
ポピュレーションアプローチ
と
ハイリスクアプローチ
があり,これらを組み合わせて集団の健康を守るという
考え方がある。「健康日本21」(第7章参照)では,広範囲に影響のあるポピュ
レーションアプローチと,対象も方法も明確にしやすいハイリスクアプローチ
を適切に組み合わせて対策を進めることを推奨している。
健康障害を起こす危険因子を持つ集
団のうち,集団全体に働きかけてリスク
を下げる方法をポピュレーションアプ
ローチ,より高い危険度(リスク)を有
する者に対して疾病予防を働きかける
方法をハイリスクアプローチとよんで
いる(
図1-3
)。
表1-2
に示すように,ポ
ピュレーションアプローチは,受動喫煙
の防止対策のような一次予防と考えら
れ,集団全体に効果が及ぶが,個人への
動機づけ効果が低いという欠点がある。
また,ハイリスクアプロ-チは二次予防
❻
ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチ
図1-3 ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチ
ハイリスクアプローチ
ポピュレー
ションアプ
ローチ
リスク
低
頻度
高
表1-2 ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチ
ポピュレ-ションアプロ-チ
ハイリスクアプローチ
対象者低リスク群,境界域を含む集団全体
高リスク群
役割
一次予防
二次予防
長所
○集団全体に効果が及ぶ
○集団全体としての発症者の減少効果が大きい
○集団から高リスク者を選ぶ手間が省ける
○方法論が明確で,対象が把握しやすい
○個人への効果が高い
○対象を絞れるため,費用対効果に優れている
短所
○直接・間接的なコストが高く,費用対効果が低い
○個人への効果が低い
○個人のモチベーションが上がらない
○成果は一時的,地域的,臨時的,限定的である
○集団全体の健康増進への貢献が小さい
○スクリーニングの費用が大きい
例
受動喫煙防止
高血圧患者の減塩