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第
4章
重要ポイント4-3
83
生体染色を用いた異型上皮や悪性腫瘍の識別法は有用である。なかでも,ヨード生体染色は上部
消化管領域において広く用いられ,早期癌の発見には欠くことのできない補助診断法となってい
る
1)
。口腔領域において,ヨード染色は異型上皮を描出し,悪性病変や悪性化の可能性のある病変
を識別できる
5, 8-15)
。また,異形成を示す粘膜上皮と正常粘膜上皮の識別では,視診よりヨード染
色の正確さが示されている
6, 8-15)
。一方,口腔粘膜の生体染色でトルイジンブルーを用いた口腔扁
平上皮癌の病変範囲の診断法は,浸潤性の扁平上皮癌の検出には優れるものの,上皮内癌や高度の
異型上皮の病変断端の診断には有用ではないとの報告がある
2-4)
。局所切除の症例において,ヨー
ド染色の有無により原発巣再発率を検討した結果,ヨード染色をした症例群で有意に原発巣再発率
の低いことが示されている
7, 8)
。さらに,ヨードとトルイジンブルーを併せて用いるヨード・トル
イジンブルー染色法
9)
や, ヨードを2回にわたり染色する2回染色法が切除範囲の決定に有用であ
るという報告もある
10)
。しかし,広範囲に不染域を認めた場合,どこまで切除するかの判断が困難
な場合もある。ヨード生体染色の欠点として,歯肉や口蓋粘膜など角化上皮を染色できないことが
あげられる
16)
。これらの部位に対する切除範囲決定の補助的手段として, fluorescence visualiza-
tion(FV)システムの有用性を示す報告がある
17)
。FVは,正常粘膜の自己蛍光をフィルターを通し
て肉眼的に観察できるシステムである。腫瘍や異型上皮では蛍光発色が減少することから,口腔粘
膜病変の診断における有用性が示されている
16, 17)
。
●
参考文献
1) 幕内博康.初心者のための技術解説私はこうしている 色素法 食道のヨード染色.消内視鏡.1996;8:700-
2.
2) Silverman S Jr, Migliorati C, et al. Toluidine blue staining in the detection of oral precancerous and malignant
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3) Kerawala CJ, Beale V, et al. The role of vital tissue staining in the marginal control of oral squamous cell car-
cinoma. Int J Oral Maxillofac Surg. 2000 ; 29 : 32-5.
4) Martin IC, Kerawala CJ, et al. The application of toluidine blue as a diagnostic adjunct in the detection of epi-
thelial dysplasia. Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod. 1998 ; 85 : 444-6.
5) Epstein JB, Scully C, et al. Toluidine blue and Lugol’s iodine application in the assessment of oral malignant
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6) Kurita H, Kurashina K. Vital staining with iodine solution in delineating the border of oral dysplastic lesions.
重要ポイント4-3
口腔癌手術における生体染色の有用性は?
生体染色を用いた異型上皮や悪性腫瘍の識別法は有用である。なかでも,ヨー
ド生体染色の不染域描出による異型上皮の識別は特異度が高く,有効である。ま
た,舌癌のT1症例あるいはearly T2症例の表在性病変では,ヨード生体染色
を行って切除した症例は,行わなかった症例に比べ明らかに原発巣再発率は低
い。しかし,ヨードは歯肉や口蓋粘膜など角化上皮を染色できないことがある。