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第2部 病理学的事項

検討ではi(12p)の存在確認が報告されている。本項目は『精巣腫瘍取扱い規約 第2版』
では「悪性転化を伴う奇形腫」,第3版では「悪性部分を伴う奇形腫」と分類されていた。
しかしながら,奇形腫自体が生物学的に悪性の性格を示すことから,今回の表現を採用した。
 免疫組織学的には,胚細胞腫瘍のマーカーが陰性を示すことが多いが,SALL4が陽性を
示すことがある。

c) 複数の組織型を有する非セミノーマ性胚細胞腫瘍(Non—seminomatous germ cell 

tumors of more than one histological type:混合型胚細胞腫瘍)

 ①および②で取り上げた2種類以上の組織型をもつ胚細胞腫瘍で,いかなる組み合わせ
も起こりうる(

図26

)。腫瘍構成成分を多い順に列記し,構成組織型の推定占拠率をパー

セントで付記する。なお,多胎芽腫(Polyembryoma)および,びまん性胎芽腫(Diffuse
embryoma)は胎児性癌と卵黄囊腫瘍からなる特殊な混合型とみなされる(

図27,28

)。

d)組織型不明な胚細胞腫瘍(Germ cell tumors of unknown type)

 転移で発症した胚細胞腫瘍患者の精巣に,壊死,瘢痕組織あるいは退縮した奇形腫しか
認められないことがあり,これを退縮性胚細胞腫瘍(Regressedgermcelltumors)と呼
ぶ(

図29

)(『精巣腫瘍取扱い規約 第3版』ではBurned—outtumorと記載されていた)。

この際の精巣組織は注意深く組織学的検索を行うべきである。ヘマトキシリンに濃染する
不定の構造(ヘマトキシリン小体)を瘢痕巣内,時にわずかに残存する精細管内に認める
ことがある。また,GCNISを認めることがある。

注)

瘢痕部は全割し,すべて標本化して,検討することが強く推奨される。同時に,瘢痕周囲
の精細管も観察し,GCNISの有無を検討することが強く推奨される。

   本項目に類似した組織像は,放射線あるいは抗癌剤で治療した患者の転移巣にもみる

ことがある。混合型では感受性の高い成分から壊死に陥り,しばしば奇形腫などがわずか
に残されていることがある。このように低感受性成分のみが残されているときには,その
単一型としての診断をつけてはならない。

2)GCNIS非関連胚細胞腫瘍(Germcelltumorsunrelatedtogermcellneoplasiainsitu)

a)精母細胞性腫瘍(Spermatocytic tumor)

 50歳以降に好発し,遠隔転移は生じない。肉眼的には浮腫を伴う充実性腫瘍を形成す
る。顕微鏡的には,3種類の細胞成分,すなわち小型のリンパ球様細胞,中等大の細胞お
よび100μmほどの大型の細胞からなる(

図30

)。しばしば精細管内増殖像を呈する。大型

の腫瘍細胞核はクロマチンが不規則に凝集し,微細顆粒状,あるいは細線維状ないし糸玉
状を呈する。核分裂像はしばしば認められる。腫瘍細胞の胞体は,やや好酸性でセミノー
マと異なり,グリコーゲンを持たない。間質にはリンパ球浸潤や肉芽腫反応を示さない。
非腫瘍部の精細管にはGCNISは認めず,他の胚細胞腫瘍成分との合併はない。
 本項目はWHO分類(2004)および『精巣腫瘍取り扱い規約 第3版』では,胚細胞性セ
ミノーマとして,セミノーマや胎児性癌などと同列に分類されていた。しかしながら,好
発年齢の違い,停留精巣との関係がない,GCNISとの関連性が乏しい,i(12p)の存在を
認めない,DMRT1が存在する9番染色体の増幅を認めること等から,生物学的にGCNIS
を伴う胚細胞腫瘍と異なる疾患であることが認識された。WHO分類(2016)から本項目
はGCNIS非関連胚細胞腫瘍に分類された。精母細胞性腫瘍とセミノーマの鑑別点を表に
まとめる。