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  第1章 創傷一般ガイドライン

3)処置に関連した痛みに配慮する

 

創の洗浄:冷たい洗浄液は避け,擦って傷つけないなど,創は愛護的に洗浄する

疼痛を最小限にするため洗浄液は体温と同程度に温めて用いる

179)

。ガーゼ等で直接

創面を擦ると組織が損傷され痛みが持続するので,適度な水圧で愛護的に洗浄する。慢
性創傷では通常創面に神経終末が露出していないので,洗浄液の浸透圧を考慮する必要
はなく, 生理食塩水以外に蒸留水,水道水でも問題はない

180)

。なお,消毒が必要と判

断された場合,消毒用エタノール,マーキュロクロム,オキシドールは組織障害性が強
い。10%ポビドンヨードは刺激性が高いが,塩化ベンザルコニウム,塩化ベンゼトニウ
ム,グルコン酸クロルヘキシジンは刺激性が低いとされている(

CQ3

参照)。

 

デブリードマン:適切な方法を選択し,痛みには十分配慮する

外科的,自己融解,物理的,酵素的,生物学的方法(マゴット療法:わが国では保険

適用がない)などがある。それぞれの方法でさまざまな程度の痛みを伴うので,その適
応には緊急性,組織の血流が確保されているか等を考慮し,基礎疾患,範囲,深さ等に
よって手技を選択する。外科的デブリードマンは境界明瞭な壊死組織の部分切除をする
場合は無痛であるが,新鮮な組織が現れるまで行う場合は通常局所麻酔等が必要にな
る。慢性創傷では肉芽組織に混在する壊死組織除去に対しての痛み対策が必要である。
静脈性下腿潰瘍の外科的デブリードマンの痛みに,外用局所麻酔薬(エムラ

クリー

ム)の有効性が報告されている

181)

(わが国では保険適用がない)。潰瘍面に外用局所麻

酔薬を使用する場合には局所麻酔中毒に十分な注意が必要である。創面に生理食塩水を
浸したガーゼをのせ,その上 に乾ガーゼをのせるwet-to-dry dressing は,壊死組織を
ガーゼに付着させて除去する物理的デブリードマンの1つであるが,組織損傷と痛みを
伴うわりに効果は限定的である

174)

。蛋白分解酵素ブロメラインを含有する軟膏(ブロ

メライン軟膏)による化学的デブリードマンは,マクロゴール基剤の吸湿作用により創
が乾燥しやすく主剤にも刺激性があるために,焼けるような, あるいはひりひりする痛
みを生じることが多い。スルファジアジン銀含有クリーム(ゲーベン

クリーム)は 水

中油型乳剤性基剤による壊死組織の軟化,自己融解 促進作用があり滲出液の少ない創

図3

 痛みの主観的評価に用いる各種スケール