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  第2章 褥瘡診療ガイドライン

Cochrane Database Systematic Reviewでは,報告により,光線線源,評価法,リス
ク評価などがまちまちで,全般的な評価はできないとしている

388)

高圧酸素治療は酸素圧を高めたタンクに入室するもので,一酸化炭素中毒や嫌気性菌
感染の治療に用いられるが,褥瘡に関して症例報告があるが通常治療に比して有用で
あるという根拠はない

383)394)

電気刺激療法はわが国では褥瘡に対する保険適用がなく,ほとんど使用されていない
が,メタアナリシスでは有効性が報告されている

385)

。しかし,一方でプラセボを用

いた新たな多施設共同二重盲検ランダム化比較試験(63例)では観察45日目までは
面積の縮小が早かったものの,エンドポイント(147日目)での面積の縮小率,治癒
率,治癒期間ともに差がなかったと報告されている

386)

。なお,本治療法は,創部と

周囲に貼付された電極との間に電流を流し,創傷治癒を促進させる治療である。陰極
にはナトリウムイオンが集まり,pHはアルカリ性になる。反対に陽極付近では酸性
となる。これらのpHの変化が細菌感染に対する影響や,血管拡張などに影響すると
考えられている。また,電極周辺に特定の細胞が引き寄せられる性質は電気走性とし
て知られている。例えば,マクロファージや好中球はマイナスに帯電しており,陽極
方向に,線維芽細胞はプラスに帯電しており,陰極方向に移動する。

大臀筋の電気刺激療法により脊髄損傷の褥瘡が有意に改善したというメタアナリシ

385)

がある。そのメカニズムとして上記以外に,電気刺激により座圧が減少するこ

とが複数の論文で示されている

389)〜392)

。また,電気刺激の前後で局所の皮膚血流量

が増加し,それに伴って脊髄損傷者の座圧が有意に減少していく

393)

ことも報告され

ている。

なお,上記の方法以外に,近年慢性の創傷に対して血管新生因子や細胞増殖因子の投
与やそれを目的とした自己の細胞の投与などの方法が開発の途上にある。製剤として
は既に実用化されている塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF, 

CQ29

参照)以外に,血

管内皮増殖因子(VEGF)

395)

,血小板由来増殖因子(PDGF)

396)

や顆粒球単球増殖因

子(GM-CSF)

397)

などが用いられている。投与方法は局所投与,プラスミドの状態で

の筋注などがある。褥瘡に対してはPDGFの局所投与についての研究があり,少数
のランダム化比較試験で,治療期間の有意な短縮が認められている

397)

。また,現在

米国でウイルスベクターを用いた鬱滞性潰瘍について治験が開始されている。

血液および血球が細胞増殖因子を含むことから,血小板から調整した溶液

398)

やヘパ

リン化した保存血

399)

を局所に密封外用する治療が行われている。また,主に血管新

生目的では血管内皮が骨髄細胞由来であることから,主に四肢の虚血を伴う病態に対
して自己造血幹細胞の投与が行われている

400)

。幹細胞投与はいずれも褥瘡に対して

はまだ臨床試験はなく,今後の治療と考えられる。

ヒトの培養線維芽細胞をコラーゲンスポンジの中で培養した培養真皮(cultured 

dermal substitute)は貼付によって皮膚潰瘍の治癒を促進し,褥瘡に対しては5例の
治療経験で治癒が報告されている

401)

。その他,ゲル基質の中に骨髄細胞

402)

bFGF

403)

を充填して貼付する方法も試みられている。