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Ⅲ-A-2. がん薬物療法頭頸部癌治療においては,頭頸部領域の病勢の制御が生存やQOL(Quality of Life)に大きく影響する。このため,全身療法であるがん薬物療法の有効性に対する期待は,他のがん腫に比べると遠隔転移病変よりも局所病変の方に重きを置く考え方となる。根治治療におけるがん薬物療法の役割は,その中心的役割を果たす手術と放射線治療(radiation therapy:RT)の効果を高めることにある。具体的には,局所進行例においては治癒や機能形態温存を目指した集学的治療として,RTと同時に行う根治的な化学放射線療法(chemoradiothera-py:CRT),根治治療の前に行われる導入化学療法(induction chemotherapy:ICT),根治的な手術後に行われる術後化学放射線療法がある。一方で,転移・再発例においては,症状緩和や生存期間の延長などを目指すことを目的にがん薬物療法が行われる。 1 根治を目指した集学的治療1)メタアナリシスからみたがん薬物療法の意義抗がん薬を手術やRTのような根治的治療とどのように組み合わせるかについて,多くの臨床試験が行われてきたが,母集団の不均一さ,結果の不一致,サンプルサイズと検出力等の問題があり,確固たる結論に至っていない。しかし,根治的なRTに抗がん薬を追加する意義を検討するために行ったメタ解析(MACH-NC)において 1-3),抗がん薬のRTに対する寄与は全体として,5年生存割合で4.5%の有意な上乗せ効果として示された。抗がん薬を追加するタイミングについては,同時併用するCRT,放射線治療前に行うICT,放射線治療後に追加する場合において,上乗せ効果はそれぞれ6.5%:2.2%:−0.3%と,同時併用するCRTが有意に高い有効性を示した 1-3)。2)化学放射線療法抗がん薬のRTに対する増感効果を利用したものであり,喉頭癌・下咽頭癌・中咽頭癌における機能・形態温存目的,局所進行例における根治目的,再発高危険度群に対する再発率低下・治癒率向上目的(➡p.261:CQ13-1)として行われる。使用する薬剤としては,シスプラチン(CDDP)が他の単剤や多剤併用と比較して高い有効性を示しており,標準的治療薬として位置づけられる。多くの重要な臨床試験において用量は100mg/m2で放射線治療中に3回投与することが標準的とされており,総投与量の重要性が認識されている。そのような中で,2020年の米国臨床腫瘍学会において本邦から発表された頭頸部扁平上皮癌術後再発高リスク群に対するCRTのPhase II/III試験であるJCOG1008試験において,CDDP 40mg/m2の毎週投与によるCRT(Weekly CDDP+RT)が従来の標準治療であるCDDP 100mg/m2を3週毎に投与するCRTに対して非劣性が証明された。この結果,根治的CRTとは異なり術後CRTにおいてはWeekly CDDP+RTが新たな標準治療の一つと認識されている 4)(➡p.261:CQ13-1)。一方で,抗がん薬の併用による効果は,高齢になるにしたがい低下する傾向があり,適応判断には注意が必要である 1,2)。また,抗EGFR抗体であるセツキシマブ(Cmab)も,RTへの上乗せ効果が報告され使用さⅢ-A-2. がん薬物療法 17Ⅲ

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