Ⅳ-11. 外科治療CQ11-1エネルギーデバイスは頭頸部癌手術において有用か?推 奨有用である。超音波凝固切開装置等の使用により,手術時間の短縮や出血量の減少などが示されている。推奨の強さ:弱く推奨する エビデンスの確実性:B 合意率:100%解 説従来から広く使用されている電気メスやバイポーラなどもエネルギーデバイスの一種であるが,内視鏡外科手術の発展に伴い,新たなエネルギーデバイス(超音波凝固切開装置等)が開発されている。近年では鏡視下手術のみならず,オープンサージャリーでの適用も増加している。超音波凝固切開装置は電気エネルギーを物理的な超音波振動に変換し,その摩擦熱によるタンパク変性作用で血管や軟部組織の凝固と切開を同時に行う。従来の縫合糸による結紮法と比較して,手術時間の短縮や出血量の減少が可能となる。また,周囲組織への損傷が少なく,患者に直接電気を使用しないことから,手術の安全性向上も期待される。超音波凝固切開装置等には,高周波電流やマイクロ波を利用するものも含まれており,これらも電気エネルギーを熱に変換し,組織の切断や凝固を行う装置である。これまでに,多くの分野でこの超音波凝固切開装置等の有用性が臨床試験やメタ解析を通じて示されている。頭頸部癌においても例外ではなく,複数のランダム化比較試験(RCT)が報告されており,RCTのメタ解析も2015年と2024年に公表された。2015年のRenらによるメタ解析では7件のRCTが含まれており,従来の手術法と比較して手術時間および出血量が減少することが示された。異質性は認められたが,感度分析の結果は許容範囲内であった 1)。2024年のメタ解析には10件のRCTが含まれ,手術時間,術中出血量,ドレナージ量の減少に関する明確なエビデンスが確認された。高い異質性があり,結果の解釈には慎重を要するが,総合的な評価は有意であり,超音波凝固切開装置の有効性が支持されている 2)。これら10件のRCTは,超音波凝固装置を用いた頸部郭清術を比較したものであり,対象となった原発巣に着目すれば,口腔に関するRCTが5件,頭頸部の各部位に関するRCTが3件,甲状腺に関するRCTが2件であった。今回の網羅的な文献収集では,さらに3件のRCTがヒットした。1件目は,高周波電流と超音波振動のハイブリッドデバイスを使用した咽喉頭手術に関する研究で,特に頸部郭清術の部分で手術時間の短縮と出血量の減少が認められた 3)。2件目は,頭頸部の各部位(うち半数以上が口腔癌)におけるアドバンスドバイポーラの研究で,手術時間の短縮が確認された(術中出血量に関するデータは報告されていない) 4)。3件目は,超音波凝固切開装置を用いた口腔癌手術における副神経機能評価に関する研究で,術後2カ月および6カ月時点で肩の痛みが減少し,6カ月目には肩の機能が改善,副神経機能の回復にも良好な結果が示された 5)。240
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