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第5章ある。また,メタアナリシス 2)では,いずれの無作為化比較試験もバイアスが大きく症例数が少ないため,ステロイド全身投与の有効性は証明されていない。そのため,米国耳鼻咽喉科頭頸部外科学会(AAO-HNS)のガイドラインでは,ステロイド全身投与は“Option”に位置づけられている。前述の全国調査の結果から,ステロイド全身投与を行った群とステロイド薬を使用しなかった群とを比較すると,有意差はないもののステロイド全身投与を行ったほうが聴力予後がよい傾向にあった 3)。ステロイド全身投与の明確なエビデンスはいまだ確立していないのが現状であるが,他に治療法が確立していない現状を踏まえると,初期治療としてのステロイド全身投与は選択肢の一つとなり得る。また,めまいに随伴した急性の低音障害型感音難聴の治療は,急性低音障害型感音難聴に準じるとの考え方もある。ステロイド薬については無効とする報告 4),有効とする報告 5,6),必要性は少ない 7,8)とする報告などさまざまである。また,有効とする報告のなかでも大量投与が有効とするもの 8),標準量のほうが効果は高いとするもの 2)の両者がみられる。さらに,プレドニゾロンのようなミネラルコルチコイド活性を有するステロイド薬を大量投与すると,聴力が一時的に悪化するという報告もある 9)。ステロイド薬と偽薬による無作為化比較試験はないため,有効性についてのエビデンスは得られていないが,突発性難聴に準じた治療薬として頻用される 10)。参考文献 1) Kitoh R, Nishio SY, Ogawa K, et al:Nationwide epidemiological survey of idiopathic sudden sensori-neural hearing loss in Japan. Acta Otolaryngol 137(sup565):S8-S16, 2017. 2) Wei BP, Mubiru S, O’Leary S:Steroids for idiopathic sudden sensorineural hearing loss. Cochrane Database Syst Rev 1:CD003998, 2006. 3) Okada M, Hato N, Nishio SY, et al:The effect of initial treatment on hearing prognosis in idiopathic sudden sensorineural hearing loss:a nationwide survey in Japan. Acta Otolaryngol 137(sup565):S30-S33, 2017. 4) Kitajiri S, Tabuchi K, Hiraumi H, et al:Is corticosteroid therapy effective for sudden-onset sensori-neural hearing loss at lower frequencies? Arch Otolaryngol Head Neck Surg 128:365-367, 2002. 5) 真鍋恭弘,鈴木弟,斎藤武久,他:急性低音障害型感音難聴の治療薬剤について─ステロイド剤とイソソルビドの比較.耳鼻臨床98:9-14, 2005. 6) Suzuki M, Otake R, Kashio A:Effect of corticosteroids or diuretics in low-tone sensorineural hear-ing loss. ORL J Otorhinolaryngol Relat Spec 68:170-176, 2006. 7) 鳥谷龍三,江浦正郎,大礒正剛,他:急性低音障害型感音難聴の初期治療─ステロイド剤使用の是非について.耳鼻と臨 52:271-277, 2006. 8) 木谷芳晴,福島英行,中村一,他:急性低音障害型感音難聴の検討.耳鼻臨床 95:999-1004, 2002. 9) 真鍋恭弘,斎藤武久,斎藤等:急性低音障害型感音難聴に対する異なるステロイド剤による効果の相違について.Audiol Jpn 45:176-181, 2002.10) メニエール病に対するイソソルビド使用のための参考資料.厚生省特定疾患メニエール病調査研究班1991.5-1. メニエール病の治療  49

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