第7章 CQCQ8 8 メニエール病に対して内リンパ嚢開放術を行うことは有効か?推奨内リンパ嚢開放術はメニエール病患者の内耳機能温存を目的とした唯一の手術治療であり,手術による侵襲性も少なく,生活指導や薬物治療に抵抗を示す難治例に対する第一選択の手術とされている。有効性は術後12カ月の短期成績において,めまい抑制,聴力温存に優れているといえる。ただし長期成績に関してはめまい抑制,聴力温存の有効性に限界があるため,そのことに留意したうえで行うことを提案する。【推奨の強さ2,エビデンスレベルB】●背景・目的メニエール病はいかなる保存的治療にも抵抗を示して増悪進行する症例がある一方,自然治癒する場合もあり,メニエール病に対して行う外科治療自体に有効性があるか否かは常に議論されてきた。しかし薬物治療と異なり,外科治療の有効性を証明する臨床試験に手術をしない対照群を置いた二重盲検試験は困難である。Cochrane LibraryのSurgery for Ménière’s disease1),Endolymphatic sac surgery2),ゲンタマイシン鼓室内注入療法のメタアナリシス 3)に基づくと,メニエール病の外科治療で無作為化比較試験が適切に施行されている論文は,Bretlau, et al., 1989 4)およびThomsen, et al., 1998 5)の内リンパ嚢手術に関するもの,Stokroos, et al., 2004およびPostema, et al., 2008のゲンタマイシン鼓室内投与に関する臨床試験のみである。メニエール病の外科治療に関する良質なエビデンスが存在しないことは大きな問題である。しかし,有効性の低い保存的治療を漫然と続ければ,高度感音難聴が進行し両耳罹患に移行するなど,患者のQOLは著しく低下する。メニエール病に対して求められる外科治療は,少なくともめまい発作に対して効果を有し,術後に耳鳴や難聴の悪化,平衡失調などの合併症が生じる可能性の低い安全なものが期待される。●解説・エビデンス内リンパ嚢開放術は,全身麻酔下で乳突単削開を行い内リンパ嚢にアプローチし,内リンパ嚢を切開開放することで内リンパ水腫を減荷し,内耳機能温存,さらに改善を目的とした手術療法である。Moffat, et al., 1994 6),Huang, et al., 1994 7),Gibson, 1996 8),Gianoli, et al., 1998 9),Kitahara, et al., 2008 10)による内リンパ嚢手術2年成績は,めまい完全抑制成績(人数%)がそれぞれ43.0%,84.4%,56.8%,60.0%,88.0%,聴力温存成績(聴力改善成績)がそれぞれ74.0%(19.0%),83.4%(12.8%),44.2%(4.7%),82.0%(66.0%),90.0%(48.0%)であった。しかし,長期成績は緩徐に低下していく傾向にある。1980年代にBretlau,Thomsen, et al.のデンマーク・グループは,難治性メニエール病に対してCQ8 メニエール病に対して内リンパ嚢開放術を行うことは有効か? 93
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