第7章ベタヒスチンに関しては,4編のシステマティックレビュー(systematic review,SR) 7-10)とエビデンスを示す5編の無作為化比較試験(randomized controlled trial,RCT) 11-15)がある。最近のCochrane Library(2023年)の調査によるSRでは,トライアルによってベタヒスチンの投与量,投与期間が異なり,めまいの評価項目(めまい強度スコア,めまい発作頻度)やその方法,評価時期もさまざまであること,また,選択バイアスが不明もしくは高リスクであることから,エビデンスの確実性が低いと分析されている。結論として,メニエール病に対するべタヒスチンの有益性を高いエビデンスレベルで述べることは困難と評価されているが,ベタヒスチン投与でめまいが僅少な差で短期的に改善することから,ベタヒスチンの有効性を示唆する見解も示されている 10)。信頼性の高い無作為化比較試験としては,プラセボもしくは無治療と比較してベタヒスチンの有益性を検討した5つの報告がある 11-15)。Mira, et al., 2003は,ベタヒスチン二塩酸塩32mg/日(41例)とプラセボ錠(40例)の3カ月間投与を行った2群に分けて,無作為化比較試験を行っている。このトライアルでは血管性の頭位めまいも対象にして疾患による比較も行っている。めまいと蝸牛症状の効果をスコア評価でみてみると,両疾患の間に有意差はなかったが,両疾患とも,治療群が治療開始後1,2,および3カ月の時点でコントロール群に比べて有意に改善したとしている。また,めまい発作頻度は,それぞれの疾患で,治療群はコントロール群と比較して治療2カ月後に有意に減少し,3カ月後にはさらに減少する結果が得られている。さらに,日常生活の支障度も治療群で有意な改善を示し,日常生活活動の向上にも効果が示されている。一方,副作用に関してはいずれも軽症で,投与群で頭痛が多い傾向にあったが,全体として副作用は投与群で28%,コントロール群で22%に認められ,両群に有意な差はない結果となっている。以上からベタヒスチンはメニエール病に対して有益性および安全性の高い薬物と結論づけている 11)。Khan, et al., 2011は,ベタヒスチン二塩酸塩48mg投与群(31例)とアミロリド塩酸塩5mg+ヒドロクロロチアジド50mg投与群(37例),およびプラセボ錠(ビタミン薬)+減塩指導群(38例)の3群間で,めまい(強度スコアと頻度の双方で減少)と聴力レベル(閾値が10dB以上低下),耳鳴[visual analog scale(VAS)で2ポイント以上減少]について比較検討している。6週後にそれぞれの改善率はベタヒスチン群で68%,63%,80%,利尿薬群で77%,54%,54%,コントロール群では45%,36%,37%となり,コントロール群に比べてめまいと耳鳴では有意な改善がみられ,聴力レベルで有意差がなかったことから,ベタヒスチンは,めまいと耳鳴を利尿薬と同様に有意に制御できるとしている 12)。Schmidt, et al., 1992は,72mgのベタヒスチン投与群(18例)とプラセボ投与群(17例)を比較する,投薬各16週間とwash out 1週間による計33週間のクロスオーバー試験を行っている。自覚的なめまい,難聴,耳鳴を4段階スコアリングにより評価したところ両群に有意な差はなく,さらに自覚的に改善を感じることのできた治療コースを尋ねるアンケートでも治療群とプラセボ群で同数の回答であった。また,カロリック検査や聴力検査所見でも両群に差はなかった結果となっている。以上から,メニエール病に対して16週投与のベタヒスチンには有益性がみられないと結論づけている 13)。CQ1 メニエール病に抗めまい薬を使用することは有効か? 69
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