74Ⅰ.新生児聴覚スクリーニング第3章解説1.介入時期背景新生児聴覚スクリーニング(新スク)の目的は,難聴という障害を早期に発見してそれに引き続く早期の適切な介入を行い,結果として障害の軽減,あるいは先天性難聴であっても健聴者同様の社会生活が可能になるようにすることである。現在は先天性難聴に対して,多くの場合,補聴器(HA),人工内耳(CI)の早期装用で音声言語がほぼ獲得できる時代となった。音声言語は単なるコミュニケーション手段に留まらず,社会性の醸成,その後の発展的学習,さらには高度な認知・思索につながる人間の成長過程にプログラムされた機能である。脳神経の急速な発達の時期である乳幼児期に聴覚刺激が遮断されるとその後の言語発達に永続的な障害をもたらすので,諸外国では難聴の早期発見,早期介入(EarlyHearingDetectionandIntervention:EHDI)は国家主導で実施されるようになってきている。解説TheJointCommitteeonInfantHearing(米国で1969年に発足した小児難聴の早期発見のために聴覚学,耳鼻咽喉科,小児科,看護学の代表からなる乳児聴覚合同委員会)による2019年のPositionStatement1)によると,生後1カ月以内に新スクを終了し,3カ月以内に難聴の評価,確定を行い,6カ月以内のなるべく早期に介入を開始すべきとされている(1-3-6ゴール)。その早期介入の必要性の根拠の一つにYoshinaga-Itano2)による難聴の早期発見から生後6カ月以内に補聴器装用などの早期介入を行った群が6カ月以降の介入群と比べて有意に言語発達が良好であったことが挙げられている。近年では1カ月以内の検査,2カ月以内の確定診断,3カ月での介入という1-2-3ゴールへの移行が見られる1)。人間の聴覚は胎生27週でABRの反応が見られ,すでに聴くことができている3)。ただ,脳幹の髄鞘化,シナプス形成は2歳頃まで続いて成人同様となる。出生時,蝸牛の中音域の域値はほぼ成人と同様である4)。新スクにAABR,DP-OAEが用いられるのは,出生時にすでに音刺激に対して脳幹の一定の反応があること,また,蝸牛の外有毛細胞が機能しているという事実に基づいている。また,図3-1に胎生7カ月からの大脳の感覚野のシナプス密度の変化を示すが5),視覚,聴覚とも生後2カ月から4カ月で急速にシナプスが増大するこ解説難聴児への早期介入の重要性と我が国の現状Ⅰ-1
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