2001〜2008年における厚生労働省前庭機能異常研究班が行った5回の国内多施設共同研究に基づくと,本邦における遅発性内リンパ水腫の患者数は同側型と対側型とを合わせて,4,000〜5,000人と考えられている1)。研究班で収集された198症例の詳細な検討では,同側型が94名(男性43,女性51)と対側型104名(男性39,女性64)で両群ほぼ同数であった。また,対側型はやや女性優位であった。先行する高度難聴の原因は原因不明(61.6%)が最も多く,突発性難聴(12.6%),ムンプスによる難聴(12.5%)が続く結果となった。同側型における難聴からのめまいの発症期間は,原因不明の難聴が先行した場合,平均26.4年,突発性難聴例では13.7年,ムンプス例では19.9年であった。対側型では,同様にそれぞれ29.7年,16.8年,17.2年であった。原因不明の難聴例では比較的長い期間を経て発症するケースが多かった。本ガイドラインの遅発性内リンパ水腫の診断基準は,2017年に日本めまい平衡医学会により改訂された診断基準である1)。遅発性内リンパ水腫は指定難病であり,医療費補助の対象になる遅発性内リンパ水腫患者は,この診断基準の遅発性内リンパ水腫確実例である。また,中耳加圧治療の対象になる遅発性内リンパ水腫患者も,本診断基準の遅発性内リンパ水腫確実例の診断基準を満たすものである。中耳加圧装置の適正使用指針を「参考資料3.」に示す(p.87)。遅発性内リンパ水腫(Delayedendolymphatichydrops)診断基準A.症状1.片耳または両耳が高度難聴ないし全聾。2.難聴発症より数年〜数10年経過した後に,発作性の回転性めまい(時に浮動性)を反復する。めまいは誘因なく発症し,持続時間は10分程度から数時間程度。3.めまい発作に伴って聴覚症状が変動しない。4.第Ⅷ脳神経以外の神経症状がない。6929.遅発性内リンパ水腫29.2遅発性内リンパ水腫の疫学29.3遅発性内リンパ水腫の診断基準参考文献1)ShojakuH,WatanabeY,TakedaN,IkezonoT,TakahashiM,KakegiA,ItoJ,DoiK,SuzukiM,TakumidaM,TakahashiK,YamashitaH,Koizuka,I,UsamiS,AokiM,NaganumaH:ClinicalcharacteristicsofdelayedendolymphatichydropsinJapan:AnationwidesurveybytheperipheralvestibulardisorderresearchcommitteeofJapan.ActaOtolaryngol130:1135-1140,2010.
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