浸潤性副鼻腔真菌症の診断と治療を問う問題
である。鼻副鼻腔CTの所見から本疾患を疑い,
組織標本のグロコット染色から診断する。さら
に診断後の患者説明の要点,治療法について問
うた。

 CTで濃淡のある不均一な軟部陰影や結節様
石灰化を認める場合には副鼻腔真菌症を疑う。
浸潤性副鼻腔真菌症とは真菌が洞粘膜や骨組織
に浸潤している病態を示し,非浸潤性真菌症と
異なり明らかな骨破壊を認める。
 この症例のCTでは,両側蝶形骨洞と右眼窩
内に軟部陰影を認める。その軟部陰影の中に高
吸収域が混在し,石灰化を認める。また蝶形骨
洞の外側壁と下壁に骨破壊を認める。

 骨破壊を認めることから副鼻腔悪性腫瘍との
鑑別が重要である。真菌症の確定診断には病理
組織診断のため生検を行う。真菌症のMRI画像
は特徴的で,真菌塊に相当する部分が,T1強調
画像では低信号を示す。またT2強調画像では
著明な低信号を示す。これは真菌塊にはマンガ
ンや鉄,亜鉛などが含まれ,T2緩和時間を短縮
するためである。ほかの炎症性疾患や腫瘍性病
変では多くがT2強調画像で高信号を呈するの
と対照的である。また血清学的検査としてβ-D
グルカンの血中濃度測定が,浸潤性副鼻腔真菌
症を含む深在性真菌症の補助診断に有用であ
る。β-Dグルカンは真菌細胞壁の構成成分であ
り,深在性真菌症において末梢血中に流出し検
出される。

 起炎菌としては,アスペルギルスが最も多
く,次いで多いのがムーコルである。アスペル
ギルスの菌糸は,幅が一定で隔壁を有し,鋭角
に分岐し,分岐にくびれがないなどの特徴があ
る(ムーコルの菌糸は,幅が一定でなく不揃い
で,垂直に分岐する)。グロコット染色の標本か
らアスペルギルスと診断できる。したがって,
本症例の診断は,浸潤性アスペルギルス症であ
る。治療方針は,手術療法と抗真菌薬の全身投
与で,それに加え基礎疾患(糖尿病)のコント
ロールを行う。患者説明は,浸潤性副鼻腔真菌
症では,予後不良な例が多く致死的疾患である
ことを十分納得いただいたうえ,手術療法や抗
真菌薬の全身投与を行うことを話すべきであ
る。本症例では,右眼窩内に進展しており,手
術に際して右眼窩内容物の摘出を要する可能性
も説明する必要がある。

記述式 問題番号 30‒8 解答と解説

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記述式問題2018(第30回)