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保存的治療
保存的治療は,嚥下内視鏡検査などで異常を認めた症例に,嚥下状態の改善もしく
は維持を目的として行う。下咽頭に唾液残留を認める場合には,唾液の喉頭流入や唾
液誤嚥を生じている可能性がある。咽頭駆出力や食道入口部開大,喉頭感覚の障害の
有無を精査すると同時に,喀出を促したり,呼吸訓練や理学的療法も重要で,他の機
能障害を合併している場合には全身的なリハビリテーションも必要となる。
また,嚥下障害患者は低栄養状態にあることが多く,栄養状態の改善を図ることも
重要であり,一時的な経管栄養も視野に入れて栄養管理にあたる必要がある。この際,
摂取熱量のみでなく,微量元素やアミノ酸の補充も考慮すべきである。
唾液分泌低下など,口腔洗浄能の低下と口腔不衛生は嚥下性肺炎のリスクを高める
ため,口腔ケアは肺炎予防の観点から,重要である。
頭頸部癌に対する化学放射線治療や手術後には,嚥下器官の形態変化や機能障害,
唾液分泌低下など,さまざまな要因による嚥下障害をきたす。それぞれの要因に対応
した保存的治療法の選択が必要となる。
高齢者は様々な基礎疾患に対して複数の内服薬を処方されている事が少なくないた
め,嚥下機能に悪影響を及ぼす可能性のある薬剤を服用していないか注意する必要が
ある。鎮静薬や抗精神病薬,抗ヒスタミン薬や抗コリン薬は肺炎発症のリスクを高め
る可能性があり,投与は慎重に行うべきである。
嚥下障害に対する薬物療法は,パーキンソン病などの原因疾患に対する治療薬と,
嚥下反射の惹起性や咳反射を促すことを期待した治療薬が報告されているが,高いエ
ビデンスは未だ示されていない。
嚥下指導は,食事中の環境整備,食事に適した姿勢,食器や食事形態の工夫,誤嚥
した際の対応など,一般的な誤嚥予防や対応策を説明する。本章の「2-7対応基準」
(p.23
参照)の1. を含めすべての症例に適応となる。
嚥下訓練は,治療目標を設定し嚥下障害の病態に応じて継続的に実施する。主に前掲
「2-7対応基準」の2. と3. が適応となる。訓練法は,嚥下内視鏡検査の異常所見をもとに
選択する(表10)。また,嚥下状態の変化や訓練の効果は嚥下内視鏡検査で確認する。嚥
下造影検査の所見も参考にして,口腔・咽頭期の病態に応じた訓練法を選択する(表11)。
嚥下訓練は,食物を用いない場合を間接訓練(基礎的訓練),食物を用いる場合を直
接訓練(経口摂食訓練)とよぶ。実際には,間接訓練を併用しながら嚥下しやすく,誤
嚥のリスクの少ない条件や訓練食を選択し,段階的に経口摂取のレベルアップを目指
す直接訓練が重要である。
具体的な訓練法は,代償的アプローチ法と治療的アプローチ法に分けられる。
☞CQ7 「頭頸部癌の化学放射線治療による嚥下障害にどう対応するか?」
(p.51参照)
☞CQ9 「嚥下障害に薬物治療は有効か?」
(p.58参照)