3.真 珠 腫
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まれに自然消失する場合もあるため,真珠腫塊
が小さい場合や低年齢で発見された場合などに
は待機的に経過観察をすることもある。また,
基礎疾患を有している場合は保存的治療を選択
することもある。
E
手術とその適応
鼓室形成術は,①乳突非削開鼓室形成術
(tympanoplasty without mastoidectomy),②
外耳道後壁保存型鼓室形成術(canal wall up
tympanoplasty:CWU),③外耳道後壁削除型
鼓室形成術(canal wall down tympanoplasty:
CWD)に分類される。CWDはさらに乳突開放
型と非開放型に細分類されている。
CWUの長所は,①外耳道の生理的形態の維
持,②定期的な局所清掃が不必要,③水泳が可
能,などであり短所としては,①視野の悪さの
ため手技が難しく経験が必要とされる,②遺残
性真珠腫や再形成真珠腫がCWDに比べて多い
傾向がある,③段階的手術が必要となることが
多い,などが挙げられる。
一方CWDの長所は,①視野がよく,明視下
での操作が可能である,②術後再発が少なく,
遺残性再発があっても早期発見が容易であるこ
と,であるが短所として,①感染や肉芽の発
生,耳漏持続などの乳突腔障害(open cavity
problem)の可能性,②定期的な局所治療の必
要性,③まれにめまいが発生,④水泳が困難,
⑤補聴器装用が困難となる場合がある,などが
挙げられる。一般論として乳突蜂巣発育良好例
や小児例においてはCWUが推奨され,長期通
院が困難な例においてはCWDが行われる傾向
がある。
近年では顕微鏡下手術に加えて内視鏡下手術
が広く行われるようになってきた。顕微鏡下手
術に内視鏡を併用する内視鏡補助下耳科手術
(endoscopic assisted ear surgery:EAES)や
経外耳道的に内視鏡のみで手術を行う経外耳道
的内視鏡下耳科手術(transcanal endoscopic
ear surgery:TEES)が存在するが,どちらも
低侵襲手術,術後の再発防止に貢献している。
しかしながら真珠腫の発生機序はいまだに不明
であるため,術後の再発を完全に抑えることは
できていない。現時点ではその病態の多彩さや
合併症治療の観点,再発防止の観点,聴力改善
の観点など多くの要因が絡むため,術式選択に
関しては様々な意見が存在している。以下に当
施設での考え方を示す。
図4 真珠腫 CT
a:先天性真珠腫。軟部濃度陰影として表出した鼓室腔の白色魂(横断像)。
b:弛緩部型真珠腫(後天性真珠腫)。上鼓室外側壁(scutum)の鈍化を認める(矢状断像)。
b
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