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第Ⅰ章 耳
は連続し外リンパで満たされています。つまり,
前庭窓から入った音波は前庭階を進行し,蝸牛頂
で鼓室階に移行して蝸牛窓から出て行きます
(図Ⅰ-18)。なお,蝸牛管と前庭階は
ライスネル膜
,
蝸牛管と鼓室階は
基底膜
によって仕切られています(図Ⅰ-8b)。
基底膜上には聴覚受容器である
コルチ器
Corti organ(
らせん器
spiral organ)がのっており,コ
ルチ器には
3列の外有毛細胞
outer hair cellと
1列の内有毛細胞
inner hair cellがあり(図Ⅰ-8b,9,
21),らせん神経節細胞からのびた蝸牛神経線維が有毛細胞神経末端とシナプスを形成していま
す。有毛細胞には感覚毛sensory hair(これを
聴毛
という)
があり,蓋膜に触れています。
前庭階か
ら鼓室階へと進行する音波は基底膜を上下に振動させ,その際に有毛細胞と蓋膜の間にズレが生じ
ます。これによって
聴毛が偏位
して有毛細胞に
脱分極
が起こり,この電気的エネルギーが蝸牛神経
に伝達され,聴覚中枢まで伝わります(p.16参照)。
また,蝸牛管の外壁には
血管条
stria vascularisがあり,内リンパの分泌吸収やイオン勾配の維
持などに関与しています。髄液と交通のある
外リンパ
は細胞外液と同様に
高Na
+
低K
+
,
内リンパ
は細胞内液と同様に
低Na
+
高K
+
となっています。
聴毛の偏位により,蝸牛管にあるK
+
が,有毛細
胞内に流入することで,脱分極
が生じます。その後,
鼓室階と連なるコルチトンネル(低K
+
)の中
へK
+
が流出する
ことで,
一連の有毛細胞による電気的エネルギーを発生させます
。
5
-
2
前 庭 vestibule
(図Ⅰ-1,6,7,10,23)
蝸牛と骨半規管の間にある骨迷路を前庭といい,外側には前庭窓があります。内部には,2つの
膜迷路があり,それぞれ
卵形嚢
utricle,
球形嚢
sacculeと呼ばれ(
あわせて耳石器
ともいう),直線
加速度の受容器である
平衡斑
macula(図Ⅰ-10,感覚細胞が存在する部位)が存在します。平衡斑
には多くの有毛細胞があり,聴神経の一部である前庭神経の末端とシナプス結合しています。有毛
細胞の毛の上には網目状の
耳石膜と,炭酸カルシウムの結晶である多数の耳石
otoconiaが乗ってお
り,
耳石膜と感覚毛の間でズレが起こると有毛細胞が脱分極し
,その電気的刺激が前庭神経に送ら
れます(p.16参照)。
前庭の機能は直線加速度を感知
することで,垂直方向の直線加速度は球形嚢,
らせん神経節
蝸牛管
蝸牛管
蝸牛頂
前庭階
前庭階
鼓室階
内耳道
蝸牛神経
らせん神経節細胞
基底回転
基底膜
ライスネル膜
外有毛細胞
内有毛細胞
神経線維
(蝸牛神経)鼓室階
蓋膜
ライスネル膜
血管条
中回転
頂回転
a
b
図Ⅰ-8 蝸牛の構造
bはaの四角部を拡大したところ。コルチ器が基底板上に存在する