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Chapter 10 • 網膜と脈絡膜

薬)、腫瘍(リンパ腫、白血病、転移性癌腫、多発性骨髄腫)、網膜の牽引(網膜前
膜)、外傷〔視神経線維層裂傷、長骨骨折、重度の胸部圧迫(白血球塞栓)〕、全身疾
患(急性膵炎、高血圧、糖尿病、高山網膜症)、放射線などが原因となる。OCTでは
視神経線維層の肥厚として観察される。網膜細動脈の閉塞による虚血が神経線維層内
の軸索流を遮断することで二次的に生じると考えられている。

治療は原疾患の治療を行う(95%の症例で原疾患は特定される)。

網膜動脈分枝閉塞症(BRAO)

  Branch Retinal Artery Occlusion

定義

 網膜中心動脈の分枝に血流障害が生じ、局所的な網膜虚血を生じる。

病因

 多くはコレステロール塞栓(Hollenhorst斑)や石灰化塞栓(心臓弁)、血小板

-フィブリン塞栓(動脈硬化による潰瘍性粥状斑)によるが、稀に白血球塞栓(血管

炎やPurtscher遠達外傷性網膜症)、脂肪塞栓(長骨骨折)、羊水塞栓、腫瘍塞栓(心
房粘液腫)、敗血症性塞栓(感染性心内膜炎や静脈内投与薬物の乱用による心臓弁の
疣贅)などでも生じる。閉塞は網膜動脈の分岐部に通常生じる。血管攣縮(偏頭痛)
や圧迫、凝固障害で起きることもあり得る。

疫学

 高齢の患者(70代)によく起きる疾患で、高血圧(67%)、頸動脈閉塞性(25

%)、糖尿病(33%)、心臓弁膜症(25%)に関連して起こる。BRAO(38%)や毛様
網膜動脈閉塞(5%)よりCRAO(57%)のほうが頻度は高い(32%の眼に毛様網膜
動脈が存在する)。

症状

 突然、片眼性に無痛性の部分的な視野欠損をきたす。この視野欠損部位は血管

閉塞部位に一致する。一過性黒内障(短時間の視覚障害症状)や脳血管障害(CVA)
の先行、一過性脳虚血発作(TIA)の既往を持っていることがある。

所見

 視力は正常もしくは低下を伴う視野欠損が出現する。動脈分枝が栄養する範囲

の網膜は部分的な楔状の白色網膜となる。90%は耳側網膜血管を含む。塞栓(62%の
症例で観察可能)やHollenhorst斑は網膜血管の分枝部にみられることがある。網膜
の白濁は数週間で消退し、視力が戻ることがある。慢性期になると、楔状の神経線維
欠損と動脈狭小化がみられることがある。特徴的な動脈同士の側副血行路が形成され
ることもある。

鑑別診断

 網膜振盪症、網膜静脈分枝閉塞症、毛様網膜動脈による回避を伴う

CRAO、動脈閉塞と静脈閉塞の合併など。

評価

眼科既往歴の把握に加え、瞳孔の観察、非接触型レンズや接触型レンズによる眼底
検査、検眼鏡検査(特に網膜血管、動脈の分岐部)を主体に眼科検査を行う。

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2017/09/14   18:22