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第Ⅲ脳神経麻痺

障害では瞳孔回避(温存)であり(80%)、圧迫性では95%で散瞳がみられる。責
任病巣がどの部位にあるか同定することが重要である。

・核性 Nuclear

ほとんどが複合麻痺である。通常、微小血管梗塞による。両側の眼瞼下垂、対側の

上直筋麻痺をきたす。原因は広範囲な脳幹障害(腫瘍、手術後)またはその他の異常
である。

・神経線維束 Fascicular

通常、脱髄性血管障害、転移性病変により発症する。以下のさまざまな症候群に関

わりがある。Benedikt症候群(第Ⅲ脳神経麻痺、対側の片側振戦、片側バリズム、
知覚障害)、Nothnagel症候群(第Ⅲ脳神経麻痺、同側の小脳失調、測定異常)、
Claude症候群(Benedikt症候群とNothnagel症候群の合併)、Weber症候群(第Ⅲ
脳神経麻痺、対側不全麻痺)

・くも膜下腔 Subarachnoid Space

通常、動脈瘤(特に後交通動脈動脈瘤)、外傷、鉤ヘルニア、稀だが微細血管障害、

感染症により発症する。通常散瞳する。

・海綿静脈洞内 Intracavernous Space

海綿静脈洞瘻、動脈瘤、腫瘍(リンパ増殖性)、炎症(Tolosa-Hunt症候群、サル

コイドーシス)、感染(ヘルペス、結核)、下垂体卒中で発症する。第Ⅳ、Ⅴ、Ⅵ脳神
経障害をきたし、交感神経障害を合併する(複合神経麻痺の項目を参照のこと)。瞳
孔回避(温存)(90%)である。

・眼窩内 Orbital Space

稀であるが、腫瘍、外傷、感染で発症する。第Ⅱ、Ⅳ、Ⅴ、Ⅵ脳神経障害をきたす

(複合神経麻痺の項目を参照)。第Ⅲ脳神経は上眼窩裂より別れる。不完全麻痺(上

枝、下枝)が起こる。しかし、不完全麻痺は線維束からくも膜下腔の部分的障害でも
発症し、臨床的に類似する。

症状

 複視(単眼視では消失)、眼球偏位、時に疼痛、頭痛、同側の眼瞼下垂

所見

 眼瞼下垂、側方方向(視)以外の眼筋麻痺、下転させると滑車神経の作用によ

り回旋運動が引き起こる。牽引試験陰性、第一眼位では外斜視、下斜視(眼球は下、
外向き)。対光反射は消失し中等度散瞳、“開いた”瞳孔、遠心路障害、異所性再生の
症例では眼瞼の異常運動(下直筋、内直筋への線維が上眼瞼挙筋へ誤支配、下転時ま
たは内転時に眼瞼後退〈偽Graefe徴候〉が起こる)、瞳孔の異常運動(下直筋、内直
筋への線維が瞳孔括約筋へ誤支配、下転時または内転時に縮瞳する)、他の神経障害
や脳神経麻痺をきたす(ビデオ2.9参照)。

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