143

ン分泌障害に伴う耐糖能異常を示すことも明らかにされ,ランゲルハンス島特異的エンハンサーが,糖尿
病を引き起こすことが明らかにされた

22)

。最近,睡眠とリズム障害の研究者によるエネルギー代謝と糖

尿病に関する審議が公開され,この分野の社会的広がりがうかがわれる

23)

 

 

食塩感受性高血圧と体内時計

 古くより血圧の日内変動はよく知られており,血圧は明け方から上昇に転じ,午前中上昇し続け昼に
ピークに達し,午後減少し,深夜最低値に至る。この血圧リズムは通常の高血圧患者にもみられるが,こ
のリズムが消失するnon-dipper,逆方向の日周変動を示すriserなどの病態では,心血管疾患の併発率が
高くなる要注意群といわれ,インテンシブなケアが必要とされている

24)

。また,生体リズムを乱す交替

制勤務や長時間勤務などでは血圧は上昇し

25)

,生体リズムと血圧の変動は大変関係が強いといわれている。

しかし,生体リズムがどのような機構で血圧を制御しているのか,またリズム異常がどうして高血圧をき
たすのかについては,長い間,全く不明であった。我々は,最近,時計遺伝子Cryの2つのサブタイプ
ともに欠失した行動リズムのないCry1

-/-

Cry2

-/-

マウスが,副腎アルドステロン産生に異常亢進をきたし,

食塩感受性高血圧を示すことを発見した

26)

。マイクロアレイ検査の結果,Cry1

-/-

Cry2

-/-

マウスでは,新

規3β水酸化ステロイド脱水素酵素(3β-hydroxysteroid dehydrogenase-isomerase:3β-HSD)である
Hsd3b6(ヒトHSD3B1)がきわめて高値を示すことがわかった。マウスHsd3b6,ヒトHSD3B1はいずれも,
副腎皮質球状層のアルドステロン細胞に局在し,プレグネノロンからプロゲステロンへの合成ステップを
司り,このステップが新たなアルドステロン合成の律速酵素である可能性が浮上している。興味深いこと
に,この酵素は,時計だけでなく,AT1受容体を介して,アンギオテンシンIIにもその発現を強く制御
されている

27)

 そこで,我々は,この酵素がヒト原発性アルドステロン症の発症,進展に関与しているのではないかと
考えている。原発性アルドステロン症は,低レニン・高アルドステロン血症を示す副腎原発の疾患で,そ
の病型は,アルドステロン腺腫(aldosterone producing tumor:APA)と,特発性アルドステロン症(idio-
pathic hyperaldosteronism:IHA)の2型に分かれる。我々は,ヒトにおける病態を探るべく,新型
3β-HSDであるHSD3B1と旧型3β-HSDであるHSD3B2のそれぞれに選択的なサブタイプ特異的モノ
クローン抗体を作製し,原発性アルドステロン症の副腎皮質における発現を免疫組織化学により検索し

28)

。IHAではHSD3B1が球状層で陽性細胞数のみならず各細胞の染色性も著増していたのに対し,

APAの腫瘍部分ではほとんどの細胞にHSD3B2が強く発現しており,HSD3B1はまれにしか認められな
かった。これは,原発性アルドステロン症でみられる高アルドステロン血症の原因はIHAとAPAで異
なり,IHAでは過形成された両側副腎のHSD3B1の過剰で起こり,APA腫瘍ではHSD3B2の産生によっ
て起こることを示唆している。同じ原発性アルドステロン症でも,全く違った病因が考えられ,今後の展
開が注目される。

文献

●●●

1) 岡村 均ほか:【臓器円環による生体恒常性のダイナミクス 神経・免疫・循環・内分泌系の連関による維持,ライフステージに応

じた変容と破綻】 生体時計ネットワークによる動的ホメオスタシスとその破綻.実験医学31:765-72, 2013

2) Reppert SM et al:Coordination of circadian timing in mammals. Nature 418:935-41, 2002
3) Shigeyoshi Y et al:Light-induced resetting of a mammalian circadian clock is associated with rapid induction of the mPer1 

transcript. Cell 91:1043-53, 1997

4) Okamura H:Clock genes and cell clocks:roles, actions and mysteries. J Biol Rhythms 19:388-99, 2004
5) Xu Y et al:Functional consequences of a CKIδmutation causing familial advanced sleep phase syndrome. Nature 434:640-

4, 2005