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第5章 涙液層における油層と液層の関連(正常状態と異常)

涙液層の最新モデル

20世紀中頃,Wolffによって提唱された涙液層のモデル

1)

,すなわち,涙液層が油層,水層,

ムチン層の3層からなるというモデルは,その後の発見によってリバイスされてきている。現
在,涙液層は,油層および分泌ムチンと水分を主な構成要素とする液層(ムチンゲル)の2層か
らなると考えるのが適当で(

図1

),液層には,aqueous/mucin gel layer

2)3)

,mucoaqueous 

layer

4)

,mucoaqueous subphase

5)

といったさまざまな呼称がある。

油層は,表層の非極性脂質層と直下の両親媒性脂質層の2層からなり,最新の報告によれば,

非極性脂質層は,コレステロールエステル(油層全体の45%)とワックスエステル(35%)を主
体とし,両親媒性脂質層は,ホスファチジルコリン,ホスファチジルエタノールアミンといっ
たリン脂質(4%),OAHFA〔(O-acyl)-ω-hydroxy fatty acid family〕(2.5%),スフィンゴ
脂質(1.8%)からなるとされる

2)

。マイボーム腺の脂質(meibum)は,非極性脂質層を形成する

が,腺組織からホロクラインで分泌された後,導管を通って開口部に至り,導管の弾性,ある
いは,眼輪筋の一部であるRiolan筋の収縮により開口部から分泌され,いったん,眼瞼縁に
貯留した後,開瞼時に油層として利用される。一方,油層の排出経路としては,閉瞼時に皮膚
側に圧出される経路

6)

と,開瞼後,メニスカスの涙液の流れにより,涙点から排出される経路

が考えられるが,前者は,涙液減少眼で油層が厚くなること

7)

,後者は,涙点プラグ挿入眼で

涙液層が厚くなることが,その説明になり得る。

第5章

Summary

油層は,開瞼後に液層の表面を上方に伸展しながら,液層を引き上げ,角膜上の涙液層の形

成に働く。油層の上方伸展速度(V)は,液層の厚み(T),ひいては,涙液メニスカスの曲率半径

(R)に比例し,TやRが大きいとVは大きくなる。一方,油層は,液層を足場として伸展する

ため,涙液減少眼では,油層の上方伸展が制限されてその機能障害を合併する。油層の上方伸
展,ひいては,涙液層の形成は,油層の表面圧勾配と粘弾性特性に基づいて起こり,正常では,
瞬目ごとに再現性よく涙液層が形成される。油層の機能として,液層の水分の蒸発抑制が重要
と考えられてきたが,それ以外の可能性もある。油層の障害原因として,マイボーム腺機能不
全や外界からの界面活性剤などの影響がある。

京都府立医科大学眼科学教室 横井則彦

Norihiko YOKOI

涙液層における油層と液層の関連

(正常状態と異常)