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第1部 総論

マイボーム腺の病理組織学的変化

剖検例におけるヒトマイボーム腺の病理組織学的変化には,導管の拡張,腺房の萎縮,基底

膜の肥厚,肉芽腫性炎症,肉芽組織などがある

1)2)

導管の拡張と過角化

マイボーム腺の重要な病理組織学的変化は,導管上皮の過角化hyperkeratinizationであ

1)2)

。マイボーム腺の腺房で作られた脂質は,小導管を介して,中心導管へ排出される

3)

中心導管の上皮は角化型重層扁平上皮で,皮膚の表皮とほぼ同様の分化を示す。この角化型上
皮に過角化が生じると,導管の内腔に角化物が脱落する。角化物と脂質が混じり合うと,脂質
が開口部から排出されない。また,導管開口部の上皮も過角化を生じ,狭窄や閉塞を起こす。
これらの結果,導管内腔に角化物が貯留し,導管が拡張する(

図1

)。これが閉塞性マイボーム

腺機能不全(MGD)の主たる病態であると考えられている

4)

。この変化は年齢と関連がなく,

加齢とは無関係に生じるものと考えられる

1)

歴史的にみると,1959年Straatsma

5)

が,眼瞼腫瘍の術後の標本で,導管が閉塞されるため

に拡張が生じるとした。その後,1980年代になると,Jester

6)

やGutgesell

7)

が導管上皮の角化

の異常が導管拡張の原因であると報告した。

過角化による導管の拡張は古くから動物実験でも観察されている。ウサギに2%エピネフリ

第4章

Summary

マイボーム腺の重要な病理組織学的変化は,導管上皮の過角化と腺房の萎縮である。角化物

の増加によりマイボーム腺の分泌物(脂質)の排出が低下する。マイボーム腺の萎縮により分泌
が低下すると考えられる。萎縮の原因は,1次的な要因と2次的な要因に分かれると推測される。
1次的な要因とは,加齢などにより腺細胞が萎縮することである。2次的な要因とは,角化物の
停滞によって導管内圧が上昇し,圧により腺細胞が萎縮するものである。炎症による変化は,
肉芽腫性炎症と肉芽組織の2つがある。これらの病理組織学的変化を生じるメカニズムに関し
てはまだ不明な点が多い。

自治医科大学眼科学講座 

小幡博人

Hiroto OBATA

マイボーム腺の病理