26
第1部 総論
Ⅰ
マイボーム腺の病理組織学的変化
剖検例におけるヒトマイボーム腺の病理組織学的変化には,導管の拡張,腺房の萎縮,基底
膜の肥厚,肉芽腫性炎症,肉芽組織などがある
1)2)
。
Ⅱ
導管の拡張と過角化
マイボーム腺の重要な病理組織学的変化は,導管上皮の過角化hyperkeratinizationであ
る
1)2)
。マイボーム腺の腺房で作られた脂質は,小導管を介して,中心導管へ排出される
3)
。
中心導管の上皮は角化型重層扁平上皮で,皮膚の表皮とほぼ同様の分化を示す。この角化型上
皮に過角化が生じると,導管の内腔に角化物が脱落する。角化物と脂質が混じり合うと,脂質
が開口部から排出されない。また,導管開口部の上皮も過角化を生じ,狭窄や閉塞を起こす。
これらの結果,導管内腔に角化物が貯留し,導管が拡張する(
図1
)。これが閉塞性マイボーム
腺機能不全(MGD)の主たる病態であると考えられている
4)
。この変化は年齢と関連がなく,
加齢とは無関係に生じるものと考えられる
1)
。
歴史的にみると,1959年Straatsma
5)
が,眼瞼腫瘍の術後の標本で,導管が閉塞されるため
に拡張が生じるとした。その後,1980年代になると,Jester
6)
やGutgesell
7)
が導管上皮の角化
の異常が導管拡張の原因であると報告した。
過角化による導管の拡張は古くから動物実験でも観察されている。ウサギに2%エピネフリ
第4章
Summary
マイボーム腺の重要な病理組織学的変化は,導管上皮の過角化と腺房の萎縮である。角化物
の増加によりマイボーム腺の分泌物(脂質)の排出が低下する。マイボーム腺の萎縮により分泌
が低下すると考えられる。萎縮の原因は,1次的な要因と2次的な要因に分かれると推測される。
1次的な要因とは,加齢などにより腺細胞が萎縮することである。2次的な要因とは,角化物の
停滞によって導管内圧が上昇し,圧により腺細胞が萎縮するものである。炎症による変化は,
肉芽腫性炎症と肉芽組織の2つがある。これらの病理組織学的変化を生じるメカニズムに関し
てはまだ不明な点が多い。
自治医科大学眼科学講座
小幡博人
Hiroto OBATA
マイボーム腺の病理