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2■第1章 総 説診断総論1 子宮内膜症の診断の臨床的意義子宮内膜症は病理学的には良性の疾患であるため,悪性腫瘍と異なり,病変の存在を検出すること自体が診断の目的ではない。言い換えれば,症状が存在しない場合は,微小な病変を診断することに臨床的な価値はほとんどない。微小病変は自然に消退することも多く,必ずしも増大するものではない。逆に,症状が存在する場合は,病変の存在を同定することにより診断を下し,その診断に基づいて治療を行う。ただし,無症状であっても病変がある程度の大きさであれば,将来的に様々な症状の原因になる可能性がある。このような病変に対しては治療的介入が必要な場合もある。また,子宮内膜症においては診断的治療の概念も考慮される。すなわち,月経困難症などの症状などより子宮内膜症の疑いが強い場合,ホルモン療法による反応を加味して診断することもある。この際には機能性月経困難症などの機能性疾患との境界が不明瞭であるが,現状においては許容される考え方である。いずれにしても,子宮内膜症の病変と症状の関係について未だ不明な点も多く,また,病変の自然史についても曖昧な部分があるため,診断の臨床的意義においては今後も変遷はあるものと思われる。2 子宮内膜症診断の方法子宮内膜症は,子宮内膜あるいはその類似組織が異所性に存在する疾患と定義されている。このため,確定診断は組織学的になされるはずである。しかしながら,実際には組織学的診断以外の方法で子宮内膜症の診断がなされているのが現状である。組織学的診断に代替し得る方法として歴史的に長年汎用されていたのは,腹腔鏡所見による診断である。米国生殖医学会(ASRM)の期別分類が最も一般的かつ国際的なものとなったため,腹腔鏡所見による診断が標準と認識されてきた。しかし各論で記すように,腹腔鏡所見にも種々の制約や欠点があり,必ずしも組織学的診断を完全に代用し得るものではない。一方で,腹腔鏡に遅れて超音波断層法,MRI検査が子宮内膜症の診断に取り入れられるようになった。画像診断の性能向上に伴い,少なからず侵襲を伴う腹腔鏡診断の相対的な価値は低下し,診断のみを目的とした腹腔鏡が行われる機会は少なくなっている。自覚所見,他覚所見,血液生化学検査も有用であるが,単独で診断に使用されることはなく,画像診断ならびに腹腔鏡と組み合わせて用いられる。3 子宮内膜症診断の手順一般的な婦人科の診察と同様に問診と内診が最初に行われる。家族歴,既往歴,月経歴,妊娠・分娩歴などにおいて子宮内膜症に関連する項目を詳細に聴取する。現病歴において疼痛症状がある場合,その経時的変化や性状・部位などが重要となる。腟鏡診では特に後腟円蓋の観1診 断

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