―   ―

1

abductor digiti minimi muscle 小指外転筋

 「筋肉からの痛み」の臨床研究を始めてから10度目の新年が明けた。診察を小
指球の最外側にある本筋の触診で始める。筋腹が硬く触れ(筋硬症),圧搾痛が生
じればK点症候群である。次いで,例えば五十肩で,広背筋の伸長テストで激痛
が生じれば,同筋が責任筋である。本筋もしばしば小指にしびれを引き起こす。
その場合,他指屈曲位で小指を内転して本筋を伸長すると激痛が生じる。
 本筋は第1背側骨間筋と同様に頸部脊髄症や神経根症,肘部管症候群,Guyon
管症候群で筋力低下と萎縮が顕れる。小指球を背・尺側から観察し,第5中手骨
との間に陥凹があれば萎縮と言える。
 ラテン語名のabductor digiti minimiをどう発音するか。学生時代の解剖学で
は独語読みであった。卒業後,これからは英語の時代と考えた。調べるとア

ター デ

ジタ

ミナマ

であった。仲間内では気恥ずかしかった。されど海外に

出て,慣れていて良かったと実感できて,弾みが付いた。 

(整・災外59:7, 2016)

abscess 膿瘍

 外科学総論でEiterの溜まったものがAbszeßと独語用語で習った。それらの
英語は言うまでも無かろうが,pus膿とabscess膿瘍である。
 関節の外転,内転のabduct,adductはラテン語の動詞ducere導くに由来する
ductに,それぞれ接頭辞で意味がaway,from,off,apartのab-,to,up toの
ad- が付いたものである。ところが,abscessとaccess接近が,cedere行くに由
来のcessにab- とad- の意味を付加したものとは,字面からは合点がいき難い。
cの前で,ab- はabs- に,ad- はac- となると知って,納得できた。
 Abscessの原義は上述のようにgoing awayと分かる。即ち,膿の流出の様を
表したものである。ところが,複数形abscessesがある。さすれば,溜まった膿
を数えられるtumorに見立てた訳で,膿瘍の邦語が当を得ていることになる。な
お,pusはギリシャ語のpuon膿が元であり,そのpuonから派生の形容詞が
pyogenicである。 

(整・災外54:364, 2011)