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1ab第6章がん治療に伴う合併症(写真提供:聖隷浜松病院 平川聡史) 放射線治療を行う場合,放射線はまず皮膚を通過して体内の標的に達するため,照射範囲に一致した皮膚の炎症が生じる。これは放射線皮膚炎とよばれ,放射線治療を受ける患者のおよそ9割が経験する,もっとも頻度の高い副作用である1)。 放射線皮膚炎は,急性放射線皮膚炎(治療中~治療終了後3カ月)と遅発性放射線皮膚炎(治療終了後数カ月~数年後)に分けられる。急性放射線皮膚炎は,放射線治療のもっとも一般的な線量分割スケジュールである1回2 Gy,1日1回の通常分割照射を行った際には,開始後2週間前後(累積線量にして20 Gy程度)で紅斑,乾燥,落屑,浮腫,熱感,そう痒感,色素沈着など,「日焼け」に類似した症状を伴って生じる2)。この放射線皮膚炎の初期段階では,放射線感受性の高い表皮基底層のケラチノサイトの細胞分裂が障害され,結果として乾性の落屑を生じる(図1a)。これ以降の症状の進行は個人差が大きいものの,一般的に累積線量が50 Gy前後まで達した際には,放射線の影響は真皮にまで至り,湿性の落屑を呈することがある(図1b)。湿性の落屑が生じると真皮の露出に伴う疼痛や,刺激による出血が生じるようになり,さらに皮膚バリアの破綻により感染をきたすリスクも上昇する。稀ではあるが,皮膚壊死および潰瘍形成,自然出血が起きることがあり,同部位に感染や致命的な出血をきたした場合には生命に関わる重篤な副作用となり得る。また,皮膚表面に高線量が照射された場合,遅発性放射線皮膚炎として毛細血管拡張や皮下組織の線維化,表皮の萎縮,色素脱失,皮膚壊死などの非可逆性の変化を生じることがある。さらに,放射線皮膚炎は重症化するにつれ患者の精神面,ひいてはQOLに及ぼす影響が大きくなることも指摘されている3)。したがって,放射線治療開図1 乾性落屑と湿性落屑a.放射線治療中。頸部左側,放射線照射部に紅斑が拡がる。表面には乾燥した落屑が付着する。b.治療直後(総量60Gy)。紅斑は放射線照射部位に一致しており,皮膚表面は浸軟し,湿性落屑が現れた。擦184過すれば容易にびらん・潰瘍化することが懸念される。はじめに放射線皮膚炎

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