中皮腫瘍の組織分類は,WHO Classification of Tumours series, 5th ed. Thoracic Tumours(2021)1),Female Genital Tumours(2020)2),Urinary System and Male Genital Tumours(2022)3)に記載されているが,わが国では,WHO分類に従って,肺癌取扱い規約(第8版補訂版,2021)4),卵巣腫瘍・卵管癌・腹膜癌取扱い規約 病理編(第2版,2022)5),精巣腫瘍取扱い規約(第4版,2018)6),縦隔腫瘍取扱い規約(第1版,2009)7)などに中皮腫瘍の組織分類が記載されている。 しかし,中皮腫瘍はいずれの部位でも稀な腫瘍であることから記載内容は少なく,最近,急激に増加した中皮腫の病理診断への対応には不十分である。また,中皮腫は,石綿(アスベスト)への職業ばく露,環境ばく露がその成因に深く関わっていることから,労働者災害補償保険法,石綿健康被害救済法,建設アスベスト給付金制度による患者の補償,救済の対象疾患でもある。これらの申請の中には,病理学的所見や免疫組織化学的染色などの検討が不十分なために,判定までに長い時間を要する症例がある。本取扱い規約は,病理診断,特に,胸膜中皮腫,腹膜中皮腫の組織分類と鑑別診断を中心に記載した。なお,これまでわが国では上皮型中皮腫,肉腫型中皮腫,二相型中皮腫の名称が用いられてきたが,今回の改訂を契機にWHO分類の英語表記との整合性をとって,上皮様中皮腫,肉腫様中皮腫,二相性中皮腫と訳すこととし,今後はこれらの名称を使用する。 2021年にWHO Classification of Tumours series, 5th ed. Thoracic Tumoursが刊行された。WHO分類第4版(2015)からの主な変更点は,以下の通りである。・補助的検査により以下の診断が可能 Mesothelioma in situ 浸潤所見を判断できない標本(小さな生検標本や細胞診標本など)・高分化乳頭状中皮腫を高分化乳頭状中皮腫瘍に変更・悪性中皮腫を中皮腫に変更・上皮様中皮腫を組織構造,細胞所見,間質所見により分類・上皮様中皮腫のグレード分類・リンパ組織様所見を有する中皮腫の定義・移行性所見を有する中皮腫の定義・ リンパ組織様所見を有する中皮腫と多形性所見を有する中皮腫は上皮様中皮腫あるいは肉腫様中皮腫に分類する・以下は生検標本と手術標本で診断基準が異なる 二相性中皮腫 線維形成性所見を有する中皮腫 記載内容は,上記のWHO分類第5版,肺癌取扱い規約,卵巣腫瘍・卵管癌・腹膜癌取扱い規約,肺癌診療ガイドライン―悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍を含む(2023年版)8),中央環境審議会の「医学的判定に係る資料に関する留意事項」(2024年1月30日一部改訂)9),Guidelines for Pathologic Ⅱ.組織分類の方針
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