各 論Ⅰ 診断法ステートメント切除不能膵癌患者に対して,腫瘍組織を用いたがん遺伝子パネル検査を提案する。注:保険適用は「標準治療がない固形がん患者又は局所進行若しくは転移が認められ標準治療が終了となった固形がん患者(終了が見込まれる者を含む。)」。D5 93解 説 がん遺伝子パネル検査は次世代シーケンサーで大量のゲノムの情報を網羅的に解析する検査方法で,治療に結びつく遺伝子異常を検出することが可能なため大変注目されている。腫瘍検体を用いたがん遺伝子パネル検査は国内では2019年よりOncoGuideTM NCCオンコパネルとFoundationOne® CDxがんゲノムプロファイルの2種類が保険適用となった。Founda-tionOne® CDxについてはコンパニオン診断としても複数の遺伝子異常・薬剤の組み合わせに対して承認されている。膵癌に特化したコンパニオン診断はなく,臓器横断的に固形癌に適応されるマイクロサテライト不安定性(MSI),NTRK融合遺伝子,遺伝子変異量(tumor mutation burden;TMB)スコアが該当する。しかし,現時点では実際に必要となる検査費用とコンパニオン診断に対して算定される費用が見合っていないなど,コンパニオン診断としてがん遺伝子パネル検査を用いるのは現実的ではない。 膵癌はKRAS,p53,CDKN2A(p16),SMAD4の体細胞変異が多段階的に蓄積することで発生するとされており,実際に膵癌組織ではこれらの遺伝子異常が高頻度で確認され,特にKRAS変異は膵癌の90%以上に認められる。現時点でこれらの遺伝子異常に対し有効な薬剤はない。MSI‒High,NTRK融合遺伝子(TMB‒High)は膵癌においては1%未満と報告されている。この現状を考慮すると膵癌において遺伝子パネル検査によって治療選択肢が増える見込みは高くない。ここではがんゲノムプロファイル(包括的ゲノムプロファイル取得のための検査)として実施する場合を想定して次世代シーケンサーによるゲノム解析に関する論文を中心にシステマティックレビューを行った。 益のアウトカムとして「治療選択肢の増加」,「予後の改善」を設定した。がん遺伝子パネル検査を実施する際に,生殖細胞系列の病的バリアントを疑う結果が得られる場合があり,二次的所見として重要である。これは本人や家族にとって価値観により益にも害にもなり得るため両方向のアウトカムとした。また,がん遺伝子パネル検査に際し十分な検体が残存しないケースも想定され,追加生検による出血などの合併症や腹膜播種のリスクは害のアウトカムとなる。以上より,治療選択肢の増加,予後の改善,二次的所見,追加生検による偶発[推奨の強さ:弱い,エビデンスの確実性(強さ):C(弱)]切除不能膵癌患者に対して,腫瘍組織を用いたがん遺伝子パネル検査は推奨されるか?D5CQ
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