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疫学・現況・危険因子 わが国における食道癌の現況として,日本食道学会の全国調査(2013年治療2019年解析症例8,019例)2)によると,性別では男女比が約5.4:1と男性に多く,年齢は60~70歳台に好発し,全体の年代の約70%を占める。占居部位は,胸部中部食道が約47%と最も多く,次いで胸部下部食道(約28%),胸部上部食道(約12%),腹部食道(約8%),頸部食道(約5%)であった。組織型は扁平上皮癌が約86%と圧倒的に多く,腺癌がバレット食道癌を含めて約7%であった。治療法については,内視鏡治療を施行した症例が約18%,手術症例で食道切除をした症例は約61%,化学療法,放射線療法あるいは化学放射線療法を施行した症例が約51%であった。 わが国における食道癌の危険因子は喫煙と飲酒である。わが国で約90%と頻度の高い扁平上皮癌では喫煙および飲酒が危険因子として重要であり,その両者を併用することで危険性が増加することが知られている3—7)。健常人の喫煙については前版で,『CQ1—1食道癌発生予防の観点から健常者が禁煙することを推奨するか?』に対して,システマティックレビューを行いその結果も踏まえて推奨文を【食道癌発生予防の観点から健常者には禁煙を強く推奨する】としており,それを否定する新たなエビデンスの報告がないため,今回のCQからは割愛した。また,前版では『CQ2根治した患者に対しては禁煙と禁酒の継続を推奨するか?』の推奨を【食道癌を根治した患者に対しては禁煙と禁酒の継続を強く推奨する】としている。同様の理由で今回のCQからは割愛した。 飲酒については2009年10月にWHOのワーキンググループがアルコール飲料の摂取に伴うアセトアルデヒドをGroup 1のcarcinogenとしている6)。また,アルコールやアセトアルデヒドの代謝能に関連する遺伝的要因が,飲酒のリスクを修飾することが報告されている8)。健常人の飲酒については前版で推奨度が決定できなかったため,アジア人の多量飲酒者を対象として再度CQ2として検討を行った。 食生活において,栄養状態の低下や果物・野菜を摂取しないことによるビタミンの欠乏も危険因子とされ,緑黄色野菜や果物を摂取することによって予防因子となる可能性が示唆されていることから9—11),野菜・果物の摂取について新たにCQ1として取り上げている。 腺癌は,わが国では発生頻度は数%であるが,欧米で増加傾向にあり,約半数以上を占める。GERDによる下部食道の持続的な炎症に起因するバレット上皮がその発生母地として知られており,GERDの存在やその発生要因の高いBMI,喫煙などが発生に関与しているという報告がある12—15)。わが国では,症例数が少ないため明らかなエビデンスは証明されていない。参考文献  1) 国立がん研究センターがん対策情報センター,がん情報サービス 2) Watanabe M, et al: Comprehensive registry of esophageal cancer in Japan, 2013. Esophagus. 2021; 18(1): http://ganjoho.ncc.go.jp/professional/statistics/index.html1—24. 3) Steevens J, et al: Alcohol consumption, cigarette smoking and risk of subtypes of oesophageal and gastric cancer: a prospective cohort study. Gut. 2010; 59(1): 39—48.II92わが国における食道癌の現況3危険因子

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