疫学・現況・危険因子第II章要約 [用語説明] 【罹患率】ある集団を設定し,その集団で一定期間に発生した罹患数を集団の人口で割ったもの。記載されたデータは地域がん登録全国推計によるがん罹患データ(1975~2015年)をもとに国立がん研究センターがん対策情報センターにより集計された。 【年齢調整罹患率】人口構成が基準人口と同じだったら実現されたであろう罹患率。 【粗死亡率】一定期間の死亡数をその期間の人口で割った死亡率。 【年齢調整死亡率】人口構成が基準人口と同じだったら実現されたであろう死亡率。がんは高齢になるほど死亡率が高くなるため,高齢者が多い集団は高齢者が少ない集団よりがんの粗死亡率が高くなることから,集団全体の死亡率を,基準となる集団の年齢構成(基準人口)に合わせた形で求められる。基準人口として,国内では通例昭和60年(1985年)モデル人口(昭和60年人口をベースに作られた仮想人口モデル)が用いられる。 わが国における食道癌の動態は,男性の罹患率が横ばい~減少傾向にあり,女性の罹患率が横ばい~極めて緩やかな増加傾向にある。死亡率は男女とも減少傾向にある。 現況として,性別では男性が多く,年齢は60~70歳台が多い。占居部位は胸部中部食道に最も多く,組織型は扁平上皮癌が圧倒的に多い。また,同時性,異時性の重複癌が多いことが知られている。 危険因子として扁平上皮癌では喫煙・飲酒が挙げられる。一方で予防因子として野菜・果物の摂取が挙げられる。腺癌の危険因子として,欧米ではGERDによる下部食道の持続的な炎症に起因するバレット上皮がその発生母地として知られているが,わが国においては発生数が少なく明らかとなってはいない。 地域がん登録全国推計によるがん罹患データをもとにした国立がん研究センターがん対策情報センターの集計によると,食道癌の罹患率(粗罹患率)は2015年の推計では男性で31.2人(人口10万人対),女性で5.9人(人口10万人対)であった。年齢調整罹患率は男性において近年横ばい~減少傾向にあり,女性において近年横ばい~極めて緩やかな増加傾向にある(図1)。 厚生労働省の人口動態統計によると2019年の食道癌死亡者数は11,619人(粗死亡率人口10万人対9.4人)であり,全悪性新生物の死亡者数の3.1%に相当し,粗死亡率は男性において15.9人(人口10万人対)で,肺,胃,大腸,膵臓,肝臓,前立腺に次いで高く,女性において3.2人(人口10万人対)で死因の10位以内には入っていない1)。年齢調整死亡率は,男女とも減少傾向にある(図2)。 人口動態統計による癌死亡データならびにそれを用いた種々のグラフは,国立がん研究センターがん対策情報センター(http://ganjoho.jp/reg_stat/index.html)より入手可能である1)。II7総論1罹患率・死亡率疫学・現況・危険因子
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