ンパ節郭清が省略可能である。さらに近年,乳房部分切除の症例において,一定条件下においてセンチネルリンパ節転移陽性であっても腋窩郭清省略は弱く推奨されている2)。3)放射線治療 原発乳癌治療における放射線療法の目的は局所・領域リンパ節再発の抑制であり,標準治療の一翼を担う。乳房部分切除術後の温存乳房に対する術後照射,乳房全切除術後の胸壁照射(PMRT),領域リンパ節に対する術後照射等が標準的治療と位置付けられている。放射線療法の局所制御の効果は,再発リスクが高いほど効果的である。乳癌術後の局所制御は長期生存率に影響し得るため,局所・領域リンパ節再発のリスクが高い患者には放射線療法が積極的に検討される。c.全身薬物療法 原発乳癌における薬物療法は,癌組織の生物学的特性および宿主である患者の状況と意向に応じて実施する。原発乳癌における薬物療法は再発を防ぐことが第一目標である。サブタイプや病期に基づく再発リスク評価,検討される治療の効果予測と全身状態に応じて内分泌治療,化学療法,抗HER2治療を組み合わせて計画することが基本となる。ホルモン受容体陽性,HER2陰性症例においてOncotype DXをはじめとする多遺伝子発現解析検査は,再発のリスク評価,周術期薬物療法の効果予測に,従来の免疫染色で問題となる再現性,客観性,標準化の課題を克服し,治療個別化に役立つツールとして期待されている。ガイドラインでは,リンパ節転移陰性かつOncotype DXでRS25以下の場合は術後化学療法の省略が強く推奨されている2)。また,併存症や心機能など治療の安全性に関わる全身状態の評価,有害事象に対応するためのセルフケア能力の評価なども重要となる。 腫瘍径が大きい場合などには腫瘍の縮小とその後の手術による侵襲軽減,さらに抗腫瘍効果を評価する目的で術前薬物療法が検討される場合もある。近年では術前の薬物療法による抗腫瘍効果によって,術後薬物療法を選択する臨床研究データも報告されている。また,再発高リスク症例群を 2) 日本乳癌学会編.乳癌診療ガイドライン2022年版.金 3) Statistics, Graphs and Definitions. Office of Cancer Sur-vivorship, The National Cancer Institute;https:// cancercontrol.cancer.gov/ocs/statistics#definition- survivorship(2021年10月1日アクセス)同定したうえで,従来の薬物療法に加え分子標的治療薬を使用することにより,高い再発抑制効果を期待することが試みられている。例として,luminal typeではCDK4/6阻害薬の併用,BRCA1/2病的バリアントを有する場合はPARP阻害薬,PD‒L1発現陽性のトリプルネガティブ乳癌では免疫チェックポイント阻害薬の併用などが挙げられる。d.サバイバーシップ がんサバイバーは“がんの診断を受けてからその後を生きていく人のこと”と定義され,“サバイバーシップ”とはがんサバイバーおよびケアギバー(患者の家族や身近の人々)が肉体的・精神的・経済的に充実した人生を送ろうとする意思・信念・プロセスを示す3)。サバイバーシップとして検討する項目として,治療後のサーベイランス,長期生存者の健康状態,QOL評価,治療の二次的影響や晩発性有害事象,リンパ浮腫,アピアランス,精神状態・心理的変化,社会的生活,就労,スピリチュアル,パートナーシップ,性機能・生殖機能への影響,遺伝性腫瘍などが挙げられる。がん医療チームは,がんが再発しないことのみならず,がん治療による短期的・長期的・二次的影響を個人の状況に合わせ適切に評価し,適切な情報提供を行うこと,患者本人が生活のなかで病気や自分の状況を理解し,自身のニーズや困難に対応するべく意思決定を行えるよう継続的に支援することが求められる。【参考文献】 1) 日本乳癌学会編.臨床・病理 乳癌取扱い規約 第18版.金原出版,2018.原出版,2022.210第3章 治 療(坂東裕子)
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