b.局所療法 原発乳癌の局所療法の意義は依然として大きい。適切な局所療法は予後の改善,最善の治療計画,患者QOLの向上のために重要である。手術や放射線といった局所療法を評価する臨床試験の主要評価項目の多くは局所再発率であるが,これには術者間・施設間差や周術期の全身治療が影響し得る。近年,浸潤癌の治療過程において,局所再発は遠隔転移に比較し頻度は少なく,臨床試験ではエビデンスの構築に多くの症例と長期間を要するため,臨床研究の遂行は容易ではない。さらに再建手術を含めた術式の選択は主として患者の希望に基づき行われるため,ランダム化比較試験の設定が困難な場合もある。手術手技や放射線療法に関しては一定のガイドラインは示されているが,実際の術式選択や治療方針決定にはエビデンスおよび患者の意向を考慮した個別化が求められる。1)乳房に対する手術 非浸潤癌は原則的に局所療法のみで治癒が期待できる(図2)。浸潤癌では腫瘍の進行度やバイオロジーによって,手術治療を第一に実施するか,術前薬物療法を選択するか検討される。手術では乳房部分切除術,乳房全切除術,乳房再建術などが標準的な術式である。乳房の部分切除では,局所再発を予防するため極力切除断端陰性を目標とするが,整容性が担保された状態での部分切除術が可能であるかどうかの予測が重要であり,術前に画像評価による適切な病変の広がり診断,切除による乳房の変形の予測や必要に応じたオンコプラスティック手技の計画を行い,また切除検体の詳細な病理学的評価が求められる。広い病変,同側多発癌,術後放射線治療が適切でない症例,HBOCもしくは遺伝性乳癌家系,患者が部分切除を希望しないなどの場合は,乳房全切除術が選択208第3章 治 療① 原発乳癌の治療の目的は“癌の治癒”であり,局所療法と全身療法を組み合わせた集学的治療が基本となる。② 原発乳癌治療に対する局所療法,周術期薬物療法の有効性は多くの臨床試験や無作為メタアナリシスで信頼性の高いエビデンスをもって証明されている。③ 癌患者のサバイバーシップへの関心が高まりつつあり,治療による短期・中長期的有害事象回避や,医療費の高騰を抑制するためにも,必要不可欠な治療の選択と過剰治療の回避が重要である。原発乳癌,局所治療,全身薬物治療,集学的治療,サバイバーシップa.診 断 治療方針決定のために最初に求められるのは適切な診断である。視触診,画像検査,針生検などによる病理診断を行う。治療に向けて乳房内の病変の広がりやリンパ節転移などの波及度の評価を行い,TNM分類をもとにした病期診断により腫瘍の進行度合いを評価する。乳癌取扱い規約では病期0と病期Ⅰを早期乳癌としている1)(図1)。また,組織型,異型度,ホルモン受容体であるエストロゲン受容体(ER),プロゲステロン受容体(PgR)の発現状況,HER2過剰発現の有無およびKi67の標識率の病理学的評価とそれに基づくサブタイプ評価が行われる。これらの評価を合わせ,予後予測や薬物療法の治療効果予測を行ったうえで,局所療法や全身療法を計画する。A.原発乳癌治療のプランニング学びのポイントキーワード2.乳癌の治療体系
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