A. チーム医療・地域包括 1) がん医療におけるコミュニケーション5支持医療の担い手とコミュニケー 科学技術の進歩により,がん医療においてさまざまな変化が生じている。これまで困難であった新たな診断や治療,具体的には,ゲノム情報を用いた診断や再生医療,臓器移植,高度救命医療,生殖補助医療技術など,従来の医療では実現が困難であった診断や救命,延命などが可能になってきた。一方で,生と死という生物学的な自然現象にどのような医療的な介入が許容されるか,という倫理的な課題も浮き彫りになってきている。人口構成の少子高齢化,家族構成の変化,疾病構造の変化,地域ネットワークの希薄化,IT(情報技術)の進歩,プライバシー保護の必要性など,社会的な課題も変化しつつある。がん医療の実践においては,科学技術の適用という側面にとどまらず,関連する患者自身・家族,周囲の人々,さらには地域コミュニティーをも交えた多様な関係者との対話や支援システムの構築との対応が求められてきている。がん医療やケアにおいて重要な位置づけを担う支持医療において,チームアプローチが必要とされる背景としては,医療現場において生じている問題について,患者を含む当事者,関係者が適切な対話を行うことによって,患者にとって最適な方法を探り,実践するという過程が重視されていることが挙げられる。がん医療および支持医療の実践においては患者との対話,自由意志による診療参画が不可欠といえる。職種間,患者とのコミュニケーションは,診断・治療・フォローアップなど一連の経過を通して継続的に維持されるべきものである。 米国がん研究所の記載を紹介すれば,「がんサバイバー」(経験者)とは,がんと診断されたときからその人の人生に関わるあらゆる個人を指す。つまり,患者本人だけでなく,家族・友人・支援者もがんの体験に関わる「サバイバー」といえる。がんの治療の有無,進展の状況(治癒を得られたか,治療中か,再発転移があるかなど)によらず,身体的,心理的,対人,そして社会的な課題を含め,苦痛や不安を抱いているサバイバーに対して,治療やケアに関わる専門家がどのように関与するかが,重要といえる。がんサバイバーのニーズは多様であり,身体・精神・心理・社会・そしてスピリチュアルな面での支援を,患者・家族が暮らすコミュニティーにおいて実現するか,多面的なアプローチが必要である。 1999年に21世紀医学・医療懇談会より「21世紀に向けた医師・歯科医師の育成体制の在り方について」が答申され,国民の多様かつ高度な医療サービスに対するニーズに応える人材や,将来の医学・医療を切り拓く先端的研究の進展に寄与する人材が求められていること,こうした要請に応えるため,教育研究体制の改善,幅広い視野をもって生涯にわたり主体的に学習する医師・歯科医師を養成していく方向性が示された。平成28年に改訂された「医学教育モデル・コア・カリキュラム」では,医師として求められる基本的な資質・能力のうち,チーム医療とコミュニケーションに関して以下の項目を挙げている。・コミュニケーション能力 患者の心理・社会的背景を踏まえながら,患者およびその家族と良好な関係性を築き,意思決定を支援する。渡邊清高,西森久和,大野真司,松井優子,岡本禎晃,桜井なおみA.チーム医療・地域包括ケア・Team STEPPs 73ケア・Team STEPPsの重要性ション
元のページ ../index.html#3